ポン・ジュノ 『スノーピアサー』 レビュー

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テクノロジーに依存した閉ざされた世界がたどり着く場所

韓国の異才ポン・ジュノは、『殺人の追憶』『グエムル-漢江の怪物-』『母なる証明』といった作品で、実際の連続殺人事件や突然変異で生まれた怪物の背後に北の脅威や軍事政権、韓米同盟などを見据え、巧妙に映し出してきた。

この監督のそんな洞察力や想像力は、海外の大舞台でも通用するのか。フランスのコミックを大胆に脚色し、国際的な豪華キャストを起用した新作『スノーピアサー』にその答えがある。

地球温暖化を防ぐために化学薬品が撒かれた結果、新たな氷河期に突入した地球では、大企業が製造し、大陸を結んで走り続ける列車“スノーピアサー”だけが、残された人類の唯一の生存場所となっている。

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ウェス・アンダーソン 『ムーンライズ・キングダム』 レビュー

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決して取り戻せない時間
もはや存在しない場所

ウェス・アンダーソン監督の『ムーンライズ・キングダム』では、12歳のサムとスージーの逃避行が描かれる。映画の舞台は、1965年、ニューイングランド沖に浮かぶ全長26kmの小島・ニューペンザンス島だ。

裕福ではあるが、厳格な父親や身勝手な母親に反感を覚えるスージーと、里親に育てられる孤児で、ボーイスカウトで仲間外れにされているサム。それぞれに孤立するふたりは1年前に偶然出会い、文通で親しくなり、駆け落ちを決行する。それに気づいた親や警官、ボーイスカウトの隊長と子供たち、福祉局員が追跡を開始するが、島には嵐が迫っている。

これまでウェス・アンダーソンの作品にはいまひとつ馴染めないところがあったが、この新作には冒頭から引き込まれ、心を動かされた。

緻密に作り上げられたセットや計算されつくしたカメラワーク、多彩で効果的な音楽、簡潔で洞察に富む台詞、ユーモアを散りばめたドラマなど、一見これまでと変わらないアンダーソンのスタイルのように見える。だが、そうした細部と全体の関係が違う。

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『幸せへのキセキ』 『少年は残酷な弓を射る』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『幸せへのキセキ』 キャメロン・クロウ

原作は、イギリス人のジャーナリスト、ベンジャミン・ミーが書いた『幸せへのキセキ~動物園を買った家族の物語』(興陽館刊)。著者とその家族が、リスクを背負って荒廃した動物園を買い取り、動物たちを救い、喪失を乗り越えて新たな生活に踏み出していく実話だ。

これまでずっとオリジナルの脚本で作品を作ってきたキャメロン・クロウにとっては、はじめての原作モノということになるが、プロダクション・ノートに個人的に非常に興味をそそられる記述があった。

クロウは、売れっ子のマット・デイモンにベンジャミン役をオファーするにあたって、「脚本と一緒に、1時間近い音楽のセレクションと、『ローカル・ヒーロー/夢に生きた男』(83)のソフトを送る」というユニークな方法をとったというのだ。

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ルカ・グァダニーノ 『ミラノ、愛に生きる』 レビュー

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グローバリゼーションに呑み込まれていく一族、自然のなかで心と身体を解き放つヒロイン

繊維業で成功を収めた富豪のレッキ一族に嫁ぎ、成人した三人の子供の母親として何不自由ない生活を送るエンマ。そんなヒロインが、息子の友人と恋に落ち、本当の自分に目覚めていく。ルカ・グァダニーノ監督のイタリア映画『ミラノ、愛に生きる』は、表面的にはメロドラマだが、そのありがちな展開のなかで社会の変化や個人のアイデンティティが実に巧妙に掘り下げられていく。

物語は雪化粧した冬のミラノ、エンマの義父である一族の家長の誕生日を祝うパーティの場面から始まる。そこに漂う格式ばった雰囲気は、一族の揺るぎない秩序を象徴している。だが、家族のやりとりには変化の兆しが見える。しかもその兆しは、かすかな不協和音を響かせている。

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