真利子哲也 『NINIFUNI』 レビュー



Review

不可視のものがどこでもない場所から私たちを見返している

実際の事件に着想を得た真利子哲也監督の中編『NINIFUNI』では、対極の立場や環境にあるような人物が交差する。その空間をどう解釈するかで、作品の印象も変わってくる。

便宜的に田中と名づけられた若者は、もうひとりの仲間と強盗を働く。その後、奪った車でひとり国道を彷徨う。やがて日が落ちると誰もいない浜辺に車を止め、窓に目貼りをし、練炭に火をつける。

その翌朝、ももいろクローバーが、プロモーションビデオの撮影のために浜辺に到着する。スタッフが浜辺を舞台に変え、彼女たちの曲が流れ出す。そして、田中が横たわる車からも、遠くに彼女たちが歌い踊る姿が見える。

続きを読む

『RIVER』 『NINIFUNI』 試写



試写室日記

本日は試写を2本。

『RIVER』 廣木隆一

秋葉原の無差別殺傷事件で恋人を失ったヒロインが、秋葉原で恋人の痕跡をたどり、様々な人物との出会いを通して次第に立ち直り、未来に踏み出していく。

秋葉原の事件を題材にした作品で筆者が思い出すのは、佐々木友輔監督の『夢ばかり、眠りはない』だ。あの映画では、事件へのこだわりや、それを題材にする必然性が感じられたし、秋葉原から取手の郊外へと視点が移行していく展開にも説得力があった。

この『RIVER』の場合は、その必然性が弱い。事件は、秋葉原を舞台にした世代論的なドラマを描くためのきっかけにとどまっている。どうしてもこの事件でなければ表現できない喪失と再生の物語になってはいない。それを東日本大震災の被災地の光景と接続してしまうと、さらに焦点がぼやける。

続きを読む

『人生はビギナーズ』試写



試写室日記

本日は試写を1本。

『人生はビギナーズ』 マイク・ミルズ

マイク・ミルズの新作。彼のプライベートストーリーの映画化だが、これはほんとに素晴らしい。というより凄い。心を揺さぶられるだけではなく、サバービアや歴史に対する視点など実に奥が深い。

マイク・ミルズの父親は、45年連れ添った妻に先立たれたあと、75歳にして「同性愛者として残りの人生を楽しみたいんだ」とカミングアウトし、その言葉通りに人生を愉しみ、告白から5年後に他界したという。

続きを読む

『ラブ・アゲイン』 『50/50』試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ラブ・アゲイン』 グレン・フィカーラ、ジョン・レクア

スティーブ・カレル、ライアン・ゴズリング、ジュリアン・ムーア、エマ・ストーン、ジョン・キャロル・リンチ、マリサ・トメイ、ケビン・ベーコンというなんとも贅沢なキャスト。

スタイルとしては“足し算”のコメディといえる。25年連れ添った妻からいきなり離婚を切り出され、一人暮らしを始めた主人公キャルが、バーで出会ったプレイボーイのジェイコブからレクチャーを受け、自信を取り戻そうとする。というのが軸になる物語だが、そこに他の登場人物が絡む様々な伏線が加算されていき、終盤で全員が意外なかたちで勢揃いする。

続きを読む

『ミラノ、愛に生きる』 『ラビット・ホール』試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ミラノ、愛に生きる』 ルカ・グァダニーノ

故デレク・ジャーマン作品のミューズ、『フィクサー』でアカデミー助演女優賞を獲得したティルダ・スウィントンが、主演だけではなく企画の段階から深く関わり、プロデュースも手がけている作品だが、これは素晴らしい。先日観た『灼熱の魂』も圧倒されたが、こちらはまた別の意味ですごい。引き込まれた。

Bunkamura ル・シネマのリニューアルオープニング作品ということで、ミラノの上流社会とかファッションとかメロドラマとか、それらしいカラーに染められた世界にはなっているが、まったく違った見方ができる。

続きを読む