実在の奴隷解放運動家を描いた『ハリエット』の劇場用パンフレットに寄稿しています

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ハリエットが聞いた神の声とアフリカ文化

19世紀半ばに奴隷州から自由州への逃亡を果たし、秘密結社“地下鉄道”の車掌となって奴隷解放運動家として頭角を現すハリエット・タブマン。彼女の自由への渇望、変容と覚醒を描くケイシー・レモンズ監督の『ハリエット』(19)の劇場用パンフレットに、「ハリエットが聞いた神の声とアフリカ文化」というタイトルでレビューを書いています。

本作では、窮地に陥ったハリエットが発揮する不思議な能力に戸惑いを覚える人もいるかもしれませんが、そのことについては様々な証言が残されています。そして、彼女の深く強い信仰心やニグロ・スピリチュアルが果たす役割とアフリカの口承文化や超自然的な力の信仰を結びつけてみると、その能力がとても興味深く思えてきます。

2020年6月5日(金)TOHOシネマズシャンテ他、全国ロードショー。

ウルリヒ・ザイドル 『パラダイス:愛/神/希望』3部作 レビュー

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現実の世界では得られないもの

オーストリアの鬼才ウルリヒ・ザイドル監督は、まず90年代に一連のドキュメンタリー作品で異彩を放ち、新しい世紀に入った頃から次第に劇映画に重心を移すようになった。但し、ドキュメンタリーであれ劇映画であれ、タブーを恐れない挑発的な表現で、均質化、標準化された社会や人間に揺さぶりをかけ、地獄の底までとことんリアルを追求するような姿勢に変わりはない。

「パラダイス3部作」はそんなザイドルの新作だ。この3部作は当初、ひとつの長大な物語として構想されていたという。だからそれぞれのヒロインには明確な繋がりがある。

『パラダイス:愛』では、ウィーンで自閉症患者のヘルパーとして働く50代のシングルマザー、テレサが、一人娘のメラニーを姉アンナ・マリアの家に預け、ケニアの美しいビーチリゾートでヴァカンスを過ごし、セックス観光にはまっていく。『パラダイス:神』では、レントゲン技師として働く敬虔なカトリック教徒のアンナ・マリアが、夏休みの日々を移民への布教活動、祈祷会、そして何よりも人々の不貞の罪を背負って自らの身体を鞭打つことに費やす。『パラダイス:希望』では、テレサの13歳の娘メラニーが、人里離れた山奥で行われる夏休みの青少年向けダイエット合宿に参加し、父親ほどに年齢差のある合宿所の医師に初めて恋をする。

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ポール・グリーングラス 『キャプテン・フィリップス』 レビュー

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見えない力がせめぎ合う状況のなかで、いつしか最前線に立たされている者たちの悲劇

ポール・グリーングラス監督の新作『キャプテン・フィリップス』は、2009年にオマーンの港からケニアに向かうアメリカ籍のコンテナ船がソマリア沖で海賊に襲撃された事件の映画化だ。

乗組員20名、非武装のアラバマ号は、わずか4人のソマリア人海賊にあっけなく占拠される。そして船長のフィリップスには、さらなる苦難が待ち受けている。乗組員を守り、船を解放しようとした彼は、海賊とともに救命艇に乗せられ、人質となってしまう。

この映画は、フィリップスの勇気ある行動に注目が集まるはずだが、見所はそれだけではない。同じように実話を扱ったグリーングラスの過去の作品と新作には共通点がある。

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ミゲル・ゴメス 『熱波』 レビュー



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幽霊の噂とは何か、ポルトガルの新鋭による“消え去ったものの痕跡”についての考察

ポルトガル映画界の新鋭ミゲル・ゴメス監督の『熱波』は、緻密に構築されたモノクロの映像世界が実に不思議な印象を残す作品だ。

その物語は、現代ポルトガルの都市を舞台にした「楽園の喪失」と植民地時代のアフリカを舞台にした「楽園」の二部で構成されている。

第一部に登場するのは、80代の孤独な老女アウロラと彼女の世話をするメイドのサンタ、そして彼らの隣人で、定年後に奉仕活動に精を出すカトリック信者の女性ピラール。病に倒れ、死期が近いことを悟ったアウロラは、ベントゥーラという男を探すように二人に頼む。見つかったベントゥーラは、アウロラの死に目には間に合わないが、二人に50年前の出来事を語り出す。

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『ペーパーボーイ 真夏の引力』 『熱波』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ペーパーボーイ 真夏の引力』 リー・ダニエルズ

『プレシャス』で注目を集めたリー・ダニエルズ監督の新作は、ピート・デクスターのベストセラー小説の映画化。まだ人種差別が色濃く残る60年代末の南部フロリダを舞台にした異色のノワールだ。

もちろんミステリーとしての謎解きもあるし、暴力やセックスの描写は強烈な印象を残すが、必ずしもそれらが見所というわけではない。

前作の原作であるサファイアの『プレシャス』(最初は『プッシュ』だったが、いまは映画にあわせたタイトルに変更されている)の場合もそうだが、ダニエルズ監督は自分の世界を表現するのにふさわしい題材を選び出していると思う。

彼が、ゲイであることをカムアウトしていて、子供の頃にインナーシティの低所得者向け公営住宅の黒人家庭でどんな体験をしたかについては、「レーガン時代、黒人/女性/同性愛者であることの痛みと覚醒――サファイアの『プッシュ』とリー・ダニエルズ監督の『プレシャス』をめぐって」のなかで触れた。

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