パオ・チョニン・ドルジ監督 『ブータン 山の教室』 レビュー

Review

光を感じるために、影を知る。

パオ・チョニン・ドルジ監督のデビュー作『ブータン 山の教室』の主人公ウゲンは、“Gross National Happiness BHUTAN(国民総幸福 ブータン)”とプリントされたTシャツを着ている。ドラマの終盤では、ルナナ村の村長が、「この国は世界で一番幸せな国と言われているそうです。それなのに、先生のように国の未来を担う人が幸せを求めて外国に行くんですね」と語る。

そこから本作の大まかなテーマが見えてくる。経済的な豊かさだけでなく、精神的な豊かさも考慮したGNHを目標に掲げるブータンは、実際には伝統文化と急速に押し寄せる近代化・都市化の波にどう折り合いをつけていくのかという難題に直面している。

では、ドルジ監督はそんなブータンでどんな立ち位置をとり、なぜ舞台にルナナ村を選び、どんな意図でウゲンというキャラクターを作ったのか。ドルジは写真家であり、アジアを中心に各地を旅する放浪者であり、旅で見出した物語を伝える語り部でもある。そんな彼の豊かな体験や世界観は、とてもシンプルに見える本作の物語にも様々なかたちで反映されている。

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今週末公開オススメ映画リスト2013/04/04

週刊オススメ映画リスト

今回は『海と大陸』『君と歩く世界』『ホーリー・モーターズ』『アントン・コービン 伝説のロック・フォトグラファーの光と影』の4本です。

『海と大陸』 エマヌエーレ・クリアレーゼ

2011年のヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞に輝いたイタリアの俊英エマヌエーレ・クリアレーゼ監督の作品です(前作の『新世界』は2006年に同じ映画祭で銀獅子賞を受賞しています)。

同じイタリアのアンドレア・セグレ監督の『ある海辺の詩人―小さなヴェニスで―』レビューのなかで、筆者はセグレ監督が移民問題を題材にしたドキュメンタリーを監督していると書きました。『Come un uomo sulla terra / Like a Man on Earth』(08)では、リビアから地中海を渡ってイタリアにたどり着いた難民たちが苦難の道程を自ら語り、『Mare chiuso / Closed Sea』(12)では、イタリアとリビアの間で結ばれたアフリカ難民をめぐる協定の実態が明らかにされています。

シチリアと北アフリカの中間に位置するペラージェ諸島を舞台にした本作でも、アフリカ難民をめぐる問題が取り上げられています。それだけでなく、マッテオ・ガッローネ監督の『ゴモラ』レビューで書いたようなイタリアの南北問題と結びつけられているところも見逃せません。外部と内部の問題を交差させ、中央ではなく周縁から社会を見る視点が、作品を深いものにしています。

月刊「宝島」2013年5月号(3月25日発売)の連載コラムでレビューを書いていますので、ぜひお読みください。

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