『悪魔を見た』『洋菓子店コアンドル』試写



試写室日記

試写を2本観た。

『悪魔を見た』 キム・ジウン

凄惨な場面の連続とまったく救いのない展開に嫌悪感をもよおし、拒否反応を起こす人も少なくないだろうが、そういう反応を恐れずに復讐を徹底的に突き詰めることによって見えてくるものがある。どうすれば無残に殺害された婚約者と同じ苦しみを犯人に味あわせることができるのか。

『オールド・ボーイ』のように時間を費やせばそれを確認できるかもしれないが、この映画の主人公スヒョン(イ・ビョンホン)にはそういう余裕はない。だから犯人ギョンチョル(チェ・ミンシク)との間にある時間を強引に引き延ばそうとする。だがその引き延ばされた時間のなかでスヒョンとギョンチョルは、『ダークナイト』のバットマンとジョーカーのような図式に陥り、主人公が犯人の力の源になってしまう。

『洋菓子店コアンドル』 深川栄洋

「名は体を表す」ではなく「ケーキは体を表す」というべきか。なつめ(蒼井優)が最初に作ってみせるクリームがゆるくべったりとしたケーキは、他人にべったりと依存して生きている、生きようとしている彼女自身を表している。そして作るケーキが変わると彼女も変わる。

『津軽百年食堂』『コリン LOVE OF THE DEAD』試写



試写室日記

試写を2本観た。

『津軽百年食堂』 大森一樹

弘前から見える岩木山がたまらない。筆者が登りたい山の上位にランクしている。というように書くと映画と関係がないことのようだが、大森監督の『わが心の銀河鉄道~宮沢賢治物語』に岩手山があったように、この映画に岩木山があると考えるべきだろう。

『コリン LOVE OF THE DEAD』 マーク・プライス

試写室で隣の席に荷物を置いていたのは中山治美さんだった。上映が始まるまで、キアロスタミやパナヒなどイラン人の監督のことをいろいろ話していた。

制作費わずか45ポンドで作られたというゾンビ映画。ホラーとして見せようとしている感じはしないし、ゾンビと化した若者のわずかに残る記憶や意識を描きつつも、ありきたりなドラマにはなってしまわない。細部にこだわったカメラワークや編集、そしてなによりもゾンビの生態を観察しているかのような距離が異質な空気を醸し出している。

『アレクサンドリア』試写



試写室日記

本日は試写1本。

『アレクサンドリア』 アレハンドロ・アメナーバル

アレハンドロ・アメナーバルの新作なので早く観たいと思っていたが、なかなかタイミングが合わず、遅くなってしまった。

アメナーバルが、4世紀、ローマ帝国末期のアレクサンドリア、実在の女性天文学者ヒュパティアをどう描くのか期待していたが、それを上回る見応えのある作品だった。

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『神々と男たち』『MAD探偵~7人の容疑者』試写



試写室日記

試写を2本観た。

『神々と男たち』 グザヴィエ・ボーヴォワ

フランス語の原題が『Des hommes et des dieux』、英語の題名が『Of Gods and Men』、そして邦題が『神々と男たち』。心を揺さぶられる映画であることは間違いないが、どう揺さぶられるかによって、この違いがかなり気になってくる。

『MAD探偵~7人の容疑者』 ジョニー・トー×ワイ・カーファイ

警官と彼の命ともいえる銃。警官たちの間で銃とその持ち主が次々とずれていき、幽霊が跳梁し、銃をとおしてみたときにはもはや誰が誰を撃っているのかわからなくなる。そのカオスと覚醒の落差がなんとも心地よい。

『ブローン・アパート』『サラエボ、希望の街角』『ランナウェイズ』試写

試写室日記

試写を3本観た。

『ブローン・アパート』 シャロン・マグアイア

チラシでは「欲望と心を引き裂く、愛と裏切りのサスペンス」という触れ込みになっているが、実際に観たらまったく違う印象を受けるはず。海外では賛否がはっきり分かれているようだが、否定派はテロ絡みのサスペンスか、ミシェル・ウィリアムズユアン・マクレガーのメロドラマを期待して落胆したのではないか。

筆者はすんなり入り込めた、というより引き込まれた。この映画の中心にあるのは、幼いわが子を亡くしたヒロインの喪の作業で、それにテロ事件の裏に潜む真実が影響を及ぼす(ビンラディンへの手紙=モノローグはない方がいいと思うが…)。テロのことを考えなければ、 『オール・アバウト・マイ・マザー』『心の羽根』『まぼろし』などに近い。ミシェル・ウィリアムズ、好きな女優だが、この映画でも存在感が際立っている。詳しいレビューは近いうちに。

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