『Peace ピース』 『おじいさんと草原の小学校』 『ハウスメイド』試写

試写室日記

本日は試写を3本。

『Peace ピース』 想田和弘

“観察映画”という独自のアプローチによってドキュメンタリーの可能性を広げる想田和弘監督。『選挙』(07)、『精神』(08)につづく観察映画第3弾は、平田オリザと青年団を題材にした『演劇(仮題)』のはずだが、そちらは編集中で、先に公開されるこの『Peace』(10)は、「観察映画番外編」という位置づけになっている。

あらためてレビューを書くつもりだが、やはり観察映画は面白い。テーマに縛られず、先入観を排除して、対象にビデオカメラを向ける。この映画では、人間の世界と猫の世界が対等なものとして描かれる。そこには共同体があり、決して楽とはいえない生の営みや老いがある。

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『エッセンシャル・キリング』試写

試写室日記

本日は試写を1本。

『エッセンシャル・キリング』 イエジー・スコリモフスキ

『アンナと過ごした4日間』で見事な復活を遂げたポーランドの巨匠スコリモフスキの新作。主演はヴィンセント・ギャロ。ヴェネチア国際映画祭で、審査員特別賞と主演男優賞を獲得している。

作品の構造は、ジャームッシュの『ダウン・バイ・ロウ』を想起させる。『ダウン・バイ・ロウ』では、一部のニューオーリンズから二部の刑務所、そして三部の脱獄後の空間へと、情報や記号が消し去られていき、主人公たちは時代も場所も定かではないどこでもない場所へと彷徨いだす。

スコリモフスキはそれを9・11以後の世界でやってしまう。アフガニスタンから始まり、捕虜として収容所に連行され、逃亡の先にはどこでもない場所が広がる。

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『海洋天堂』 『アリス・クリードの失踪』 『いのちの子ども』試写

試写室日記

本日は試写を3本。

『海洋天堂』 シュエ・シャオルー

『北京ヴァイオリン』の脚本家として注目を集めたシュエ・シャオルーの監督デビュー作。撮影はウォン・カーワイ作品でおなじみのクリストファー・ドイル。主演はアクションを封印したジェット・リー。末期癌で余命いくばくもない父親が、ひとり残される自閉症の息子のために奔走する。

単に親子の絆を描くだけではなく、自閉症の息子という“他者”の世界が意識されている。この映画のなかでは、自閉症の世界は海の世界として表現される。父親が勤める水族館の水槽のなかを自由に泳ぎ、水中から父親を見る息子と、水槽のガラスを隔てて息子を見る父親。

その壁がどのように消し去られるのか。映画は海で始まり海で終わるが、その間に海が象徴するものが変わっていく。

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『BIUTIFUL ビューティフル』試写

試写室日記

本日は試写を1本。

『BIUTIFUL ビューティフル』 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ

『アモーレス・ペロス』『21g [21グラム]』のレビュー、あるいはイニャリトゥとコンビを組んでいた脚本家ギジェルモ・アリアガの監督作『あの日、欲望の大地で』のレビューで書いてきたように、複数の物語を断片化し、時間軸を操作し、再構成するようなイニャリトゥのスタイルにはずっと違和感を覚えてきた。

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『スカイライン―征服―』 『光のほうへ』 『プッチーニの愛人』試写

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本日は試写を3本。

『スカイライン―征服―』 ストラウス兄弟

ある日突然はじまったエイリアンによる地球侵略。圧倒的な力を持つエイリアンの前に、主人公である普通の人々はなすすべもない。昆虫型、クラゲ型、深海魚を参考にしたクリーチャーたちに捕獲されていく人々を見ながら、なんとなくドナ・ハートとロバート・W・サスマンの『ヒトは食べられて進化した』(化学同人、2007年)のことを思い出していた。人類の祖先は、狩る者ではなく、トラやライオン、クマ、オオカミなどの肉食動物に狩られる者だった。この映画は、そういう学説を意識して作っているわけではないと思うが…。

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