ダニー・ボイル 『トランス』 レビュー

Review

記憶の迷宮でせめぎ合う男女の欲望

ダニー・ボイル監督の『トランス』は、白昼のオークション会場からゴヤの「魔女たちの飛翔」が強奪されるところから始まる。40億円の名画を奪ったのは、密かにギャングと手を組んだ競売人のサイモンだったが、なぜか途中で計画とは違う行動に出た彼は、ギャングのリーダーであるフランクに殴られ、絵画の隠し場所の記憶を失ってしまう。

そこで催眠療法士のエリザベスが雇われ、記憶を取り戻そうとする。しかし、そのエリザベスには秘密があり、療法を受けるサイモンの頭のなかでは、主人公たちを翻弄するように記憶が迷宮と化していく。

自分を取り巻く世界を思い通りにしたいという欲望は誰もが持っているものだが、それにとらわれすぎれば深刻なトラブルに巻き込まれる。ダニー・ボイルはこれまで様々な設定でそんなドラマを描き出してきた。

続きを読む

『トランス』 劇場用パンフレット

News

記憶の迷宮でせめぎ合う男女の欲望

2013年10月11日(金)より全国ロードショー公開になるダニー・ボイル監督の新作『トランス』の劇場用パンフレットに上記のタイトルでレビューを書いています。主演は、ジェームズ・マカヴォイ、ヴァンサン・カッセル、ロザリオ・ドーソン。『シャロウ・グレイブ』や『ザ・ビーチ』でボイルと組んだジョン・ホッジが脚本に参加しています。

物語は白昼のオークション会場からゴヤの「魔女たちの飛翔」が盗まれるところから始まります。40億円の名画を奪ったのは、ギャングと手を組んだ競売人のサイモンですが、なぜか計画とは違う行動に出た彼は、ギャングのリーダー、フランクに殴られ、絵画の隠し場所の記憶を失ってしまいます。そこで催眠療法士エリザベスが雇われますが、サイモンの頭のなかでは、主人公たちを翻弄するように記憶が迷宮と化していきます。

続きを読む

ダニー・ボイル 『127時間』 レビュー

Review

予期せぬ事故に遭ったとき、
人はなにに目覚めるのか

ダニー・ボイルの新作『127時間』は、アーロン・ラルストンが自らの体験を綴ったベストセラーの映画化だ。主人公アーロンは、ユタ州のブルー・ジョン・キャニオンでいつものように週末のロッククライミングを楽しんでいた。ところが、不安定な岩塊とともに落下し、断崖と岩塊に右腕をはさまれ、無人の荒野で身動きがとれなくなってしまう。それから127時間、岩塊と格闘しつづけた彼は、生きるための決断を下す。

ボイルはこれまで様々な設定を通して人間のエゴを掘り下げてきた。『シャロウ・グレイヴ』(95)の三人の主人公は、それぞれに安定した仕事につき、洒落たフラットをシェアし、他人を見下している。だが、彼らの生活レベルを遥かに上回る大金が転がり込んできたことから、やがて騙し合い、殺し合うことになる。『28日後…』(02)の主人公たちは、ウイルスが蔓延する世界のなかでサバイバルを余儀なくされる。だがやがて、感染が生み出す恐怖を人間のエゴが凌駕していく。

続きを読む

『127時間』 『アジャストメント』試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『127時間』 ダニー・ボイル

全米でベストセラーになったアーロン・ラルストンのノンフィクション『奇跡の6日間』(文庫版のタイトルは『127時間』)の映画化。ユタ州の無人の荒野で、崩落した大岩に右腕をはさまれ、身動きがとれなくなったクライマーが体験する“127時間”のドラマ。これまでのダニー・ボイルの作品のなかでは『ザ・ビーチ』に近い。ジェームズ・フランコ演じる主人公と自然との距離から生まれる表現がボイルならではで、非常に面白かった。

続きを読む