スペインの新鋭ロドリゴ・コルテス監督にインタビューする



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まやかしの世界に揺さぶりをかけ、隠れているものを炙り出す

2013年2月15日(金)公開予定の『レッド・ライト』のプロモーションのために来日したロドリゴ・コルテス監督にインタビューしてきた。

彼は1973年、スペインのガリシア生まれ。『レッド・ライト』は、2010年に公開された『[リミット]』につづく監督最新作。キャストは、キリアン・マーフィー、シガーニー・ウィーバー、ロバート・デ・ニーロ、etc。内容は予告編から想像していただければと思う。

『[リミット]』がワン・シチュエーションのスリラーで、新作が超能力となると、『SAW』シリーズや『パラノーマル・アクティビティ』方面のトレンドと結びつけられてしまいそうだが、それは大きな間違いだ。

コルテス監督の世界を明確にするためには、『[リミット]』と『レッド・ライト』を分けて考えたほうがいい。『[リミット]』でもコルテスの感性や表現力は発揮されているが、そこにはクリス・スパーリングの脚本という土台があった。『レッド・ライト』は、コルテスのオリジナル脚本で、脚本自体は『[リミット]』以前に完成していた。

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ジャファール・パナヒ 『これは映画ではない』 レビュー

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パナヒと映画の登場人物の思い、外で爆竹を鳴らす人の思い

反体制的な活動を行なったとして6年の懲役と20年の映画製作禁止を言い渡されたイランの名匠ジャファール・パナヒ監督。

『これは映画ではない』は、軟禁状態にあるパナヒが、友人のモジタバ・ミルタマスブ監督の協力を得て自宅で撮り上げた異色の作品だ。彼はUSBファイルに収めた映像をお菓子の缶に隠し、ある知人に託して国外に持ち出した。

このタイトルには、映画でなければ何を作っても違反にならないだろうという痛烈な皮肉が込められているが、中身の方も一筋縄ではいかない。

自宅で脚本を読むだけなら問題ないと考えたパナヒは、絨毯にテープを貼って舞台を作り、撮影許可が得られなかった脚本を再現していく。やがてそれでは物足りなくなり、過去の監督作のDVDを再生しながら、映画とはなにかを語り出す。

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ニコラウス・ゲイハルター 『眠れぬ夜の仕事図鑑』 レビュー



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私たちは豊かで自由なのか、それとも生の奴隷として管理されているのか

ドキュメンタリー作家ニコラウス・ゲイハルターは、普段目にすることのない領域に光をあてることによって、私たちが生きているのがどんな世界なのかを浮き彫りにしてみせる。

『いのちの食べかた』で工業化された食糧生産の実態に迫った彼が、新作で注目するのは“夜に活動する人々”だ。ヨーロッパ十カ国を巡り、切り取られた夜の風景には、例によってナレーションや説明はなく、私たちの想像力を刺激する。

この映画でまず印象に残るのは、治安に関わる職業だ。冒頭と終盤には国境警備の模様が配置され、街中の監視や警察官の訓練の現場、さらにはロマ(ジプシー)の強制立ち退きや難民申請を却下された外国人の強制送還の執行にも目が向けられる。

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ペドロ・アルモドバル 『私が、生きる肌』 レビュー



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自己と他者を隔てる決定的な境界としての“肌”

ペドロ・アルモドバルの近作では、様々なアプローチで死と再生というテーマが掘り下げられてきたが、新作『私が、生きる肌』も例外ではない。この映画では、のっけから事情もわからないまま奇妙な状況に引き込まれる。

天才的な形成外科医ロベルが所有する研究所も兼ねた豪邸に、ベラと呼ばれる女性が幽閉されている。豪邸にはマリリアという初老のメイドも住み込み、ベラの世話をしている。

ある日そこに長く音信不通だったマリリアの息子セカが現れる。彼は監視モニターに映るベラを目にすると、誰かを思い出したように欲望をむき出しにし、彼女を力ずくで自分のものにする。そんな野獣の息の根を止めたのは、帰宅したロベルが放った銃弾だった。

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ファン・ドンヒョク 『トガニ 幼き瞳の告発』 レビュー



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告発のドラマが炙り出す内面化された“軍事主義”

2005年に韓国のある聴覚障害者学校で信じがたい事件が発覚した。2000年から6年もの間、校長を始め教員らが複数の生徒たちに性的虐待を行っていた。『トガニ 幼き瞳の告発』は、この事件を題材にしたベストセラー小説の映画化だ。

美術教師カン・イノが恩師の紹介で赴任した田舎町の聴覚障害者学校は、校長の双子の弟の行政室長が平然と賄賂を要求したり、生徒たちが何かに怯えているなど、最初から不穏な空気を漂わせていた。

イノは寮長から過度の体罰を受けていた女生徒を病院に運んだことをきっかけに性的虐待の事実を知る。怒りに駆られる彼は、マスコミを利用して非道を正そうとするが、裁判をめぐって困難な壁が次々と立ちはだかる。

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