ポール・グリーングラス 『キャプテン・フィリップス』 レビュー

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見えない力がせめぎ合う状況のなかで、いつしか最前線に立たされている者たちの悲劇

ポール・グリーングラス監督の新作『キャプテン・フィリップス』は、2009年にオマーンの港からケニアに向かうアメリカ籍のコンテナ船がソマリア沖で海賊に襲撃された事件の映画化だ。

乗組員20名、非武装のアラバマ号は、わずか4人のソマリア人海賊にあっけなく占拠される。そして船長のフィリップスには、さらなる苦難が待ち受けている。乗組員を守り、船を解放しようとした彼は、海賊とともに救命艇に乗せられ、人質となってしまう。

この映画は、フィリップスの勇気ある行動に注目が集まるはずだが、見所はそれだけではない。同じように実話を扱ったグリーングラスの過去の作品と新作には共通点がある。

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ゴア・ヴァービンスキー 『ローン・レンジャー』 レビュー

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『パイレーツ』3部作とは異なるアプローチで挑んだジェリー×ゴア×ジョニーの会心作

ジェリー・ブラッカイマー製作、ゴア・ヴァービンスキー監督、ジョニー・デップ主演とくれば、おそらく誰もがこの『ローン・レンジャー』を、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのチームが作り上げた新たなエンターテイメント大作と受けとめることだろう。もちろんそれは間違いではない。

脚本のテッド・エリオットとテリー・ロッシオのコンビや衣装のペニー・ローズ、音楽のハンス・ジマーを含めた『パイレーツ~』のスタッフが再結集し、かつて人気を博したテレビドラマのキャラクターを大胆なアプローチで現代に甦らせている。

たとえば、死の世界から甦ることで誕生するローン・レンジャーや復讐に燃える悪霊ハンターのトントという設定。あるいは、トントが列車の乗客を救う手助けをしたにもかかわらずのっけからお約束のように牢に放り込まれたり、無法者のブッチ・キャヴェンデイッシュが行う残酷な仕打ちが心臓がらみだったりするディテール。そこには、『パイレーツ~』のテイストが形を変えて引き継がれている。

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『ブランカニエベス』 劇場用パンフレット

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映像と音楽と題材が三位一体となった貴種流離譚

2013年12月7日(土)より新宿武蔵野館ほかで全国公開になるパブロ・ベルヘル監督のスペイン映画『ブランカニエベス』(12)の劇場用パンフレットに、上記のようなタイトルでコラムを書いています。世界各国で注目を集め、数々の賞に輝いているモノクロ&サイレント映画です。以下、プレスから一部を引用。

第37回トロント国際映画祭でのプレミア上映を皮切りに、数多の国際映画祭に出品され、瞬く間に世界の注目をさらった本作。“スペイン版アカデミー賞”と呼ばれる第27回ゴヤ賞では最優秀作品賞をはじめとする18部門にノミネートされ、他の追随を許さぬ圧倒的な強さで最多10部門を制覇。第60回サン・セバスチャン国際映画祭では審査員特別賞・最優秀女優賞のW受賞を果たしたほか、第85回アカデミー賞においては外国語映画賞のスペイン代表作に選出されるなど、その熱狂ぶりは、世界の主要映画賞50部門以上受賞という確固たる栄冠に裏付けられている。

新しいモノクロ&サイレント映画といえば、ミシェル・アザナヴィシウス監督の『アーティスト』(11)が思い出されます。どちらの映画も、サイレントを単純に現代に甦らせただけの作品ではありませんし、それぞれに独自のアプローチが際立ち、新鮮な魅力を放っています。

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『ザ・イースト』 『ダラス・バイヤーズクラブ』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ザ・イースト』 ザル・バトマングリ

主演から脚本・製作までこなす才女ブリット・マーリングと新鋭ザル・バトマングリ監督のコラボレーション第2弾。いまハリウッドで注目を集める彼らが選んだ題材はエコテロリズム。

マーリングが演じるのは、テロ活動からクライアント企業を守る調査会社に採用された元FBIエージェントのジェーン。サラと名前を変え、正体不明の環境テロリスト集団<イースト>に潜入した彼女は、大企業の不正や被害者の実情を知るうちに、彼らの信念に共感を抱くようになるが…。

キャストは、<イースト>のリーダー、ベンジーにアレクサンダー・スカルスガルド、<イースト>の重要メンバー、イジーにエレン・ペイジ、調査会社の代表シャロンにパトリシア・クラークソンという顔ぶれ。

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