ロバート・ゼメキス 『フライト』 レビュー01



Review

巡り合せが啓示に見えるゼメキスの奥深さ

ロバート・ゼメキスが久しぶりに実写に挑んだ『フライト』は、冒頭から私たちを一気に映画の世界に引き込む。

前の晩に客室乗務員と盛り上がった機長ウィトカーは、コカインで景気をつけてフライトに臨み、機内でも人目を盗んで酒を飲んでいる。驚きはそれだけではない。

なんらかの故障で機体が制御不能に陥ると、背面飛行という離れ業で危機を切り抜け、奇跡ともいえる緊急着陸を成し遂げる。だが、彼の血液中からアルコールが検出され、公聴会が開かれることになる。

ゼメキスが切り拓く世界では、“巡り合せ”が重要な位置を占めている。彼の作品の主人公は、個人の意志や能力だけで壁を乗り越えたり、なにかを達成するわけではない。

『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94)の主人公は、母親の教えを愚直に守っているに過ぎないが、巡り合せが彼を聖人にし、望むべくもなかった家族をもたらす。『キャスト・アウェイ』(00)で無人島に囚われた主人公を変えるのは、島に流れ着いた簡易トイレの残骸であり、「潮がなにかを運んでくる」が彼の人生訓になる。

続きを読む

今週末公開オススメ映画リスト2013/02/28

週刊オススメ映画リスト

今回は『フライト』『ジャンゴ 繋がれざる者』の2本です。

『フライト』 ロバート・ゼメキス

ゼメキスにとって本当に久しぶりの実写作品。見応えあります。試写のときに中原昌也氏に出会い、終わってからちょっとお茶を飲んだんですが、彼もとても気に入っていました(『フライト』試写室日記の方に書くような話題ですが、忘れてしまったのでこちらに)。

「キネマ旬報」2013年3月上旬号(2月20日発売、タラちゃんが表紙の号です)に、「巡り合せが啓示に見えるゼメキスの奥深さ」というタイトルで作品評を書いています。『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94)や『キャスト・アウェイ』(00)という過去作も振り返りつつ、新作のポイントに迫るゼメキス寄りの原稿です。ぜひ!

それから、劇場用パンフレットに「サスペンスとヒューマンドラマの見事なまでの融合」というタイトルでコラムを書いています。川口敦子氏がデンゼル・ワシントン寄りの、北小路隆志氏がゼメキス寄りの原稿を書かれているので、筆者はどちらにも寄らず、作品の構成や映像表現を細部まで掘り下げるような原稿になっています。ぜひ!

「キネマ旬報」の筆者の記事の隣のページはゼメキスのインタビューで、そのタイトルが「すばらしい脚本にめぐりあったら作るしかない」。まさにその通りで、これはジョン・ゲイティンズの脚本ありきの作品といえます。彼は最初は俳優を目指し、バーテンダーなどをやりながらオーディションに通い、それなりに苦労したようですが、脚本家として見事に花開きました。

続きを読む

『マーサ、あるいはマーシー・メイ』 『フライト』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『マーサ、あるいはマーシー・メイ』 ショーン・ダーキン

アメリカの新鋭ショーン・ダーキンの長編デビュー作。カルト集団から脱走し、湖畔の別荘で休暇を過ごす姉夫婦と暮らすことになった若い女性マーサ。だが、マーシー・メイという名前で過ごしたカルトでの体験がよみがえり、次第に過去と現在、現実と幻想の境界が曖昧になっていく。

この作品については、観る前から自分の好みの映画だという確信があった。それは題材に興味があったからということではない。製作総指揮にテッド・ホープの名前があったからだ。彼は筆者が絶対的な信頼を寄せるプロデューサーで、実際この作品でも彼の“目利き”に間違いはなかった。

↓予告編の次に貼ったのは2011年のサンダンス映画祭におけるこの映画のスタッフ・キャストの会見を収めたものだが、司会進行を務めるメガネのおじさんがテッド・ホープだ。彼が頭角を現した頃には、手がけた作品を取り上げるたびに彼のこともプッシュしていたが、最近はあまり触れていなかったので、ここで少し振り返っておくのも悪くないだろう。

続きを読む