シャロン・マグアイア 『ブローン・アパート』レビュー

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テロで家族を奪われたヒロインはいかにして喪失を受け入れるのか

『ブローン・アパート』のヒロインは、警察の爆弾処理班の夫と4歳の息子とロンドンのイーストエンドに建つ公団に暮らす“若い母親”(ミシェル・ウィリアムズ)だ(この映画では彼女の名前は明確にされない)。夫の危険な仕事が大きなストレスになっていた彼女は、パブで出会ったジャスパー(ユアン・マクレガー)と関係を持ってしまう。彼は公団の向かいに建つジョージアン様式の建物に暮らす新聞記者だった。

そして事件が起こる。夫と息子をサッカー観戦に送り出した彼女は、路上で偶然再会したジャスパーと情事に耽っていた。そのときテレビのサッカー中継が爆音にかき消される。スタジアムで自爆テロが起こったのだ。このテロで息子と夫を亡くした彼女は、罪悪感と喪失感に苛まれる。ジャスパーと夫の上司だったテレンスが、そんな彼女に手をさしのべようとするが、やがてテロ事件をめぐる秘密が明らかになる。

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1月29日(土)より銀座シネパトス他にて全国順次ロードショー (C) 2008 CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION/INCENDIARY LTD. ALL RIGHTS RESERVED

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ロバート・ケナー 『フード・インク』レビュー

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食品を通してわたしたちを支配する見えないシステムの脅威

ロバート・ケナー監督のドキュメンタリー『フード・インク』では、工業化された農業、多国籍企業による食品の支配、利益だけを追求する徹底した合理化が生み出す脱人間化といったテーマが掘り下げられていく。

この映画のプロデューサーで、中心的なガイド役を務めているのは、『ファストフードが世界を食いつくす』(楡井浩一訳/草思社/2001年)の著者でジャーナリストのエリック・シュローサーだ。ケナー監督はプレスに収められたインタビューで、この映画の企画について以下のように語っている。

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1月22日(土)よりシアター・イメージフォーラム他、全国順次ロードショー! (C)Participant Media

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クリス・マロイ 『180° SOUTH/ワンエイティ・サウス』レビュー

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1968年から2008年の間に自然と人間の関係はどう変化したか

クリス・マロイ監督のドキュメンタリー『180°SOUTH/ワンエイティ・サウス』は、「patagonia」と「THE NORTH FACE」という世界的なアウトドア・ブランドの創業者であるイヴォン・シュイナードとダグ・トンプキンスがかつて成し遂げた伝説の旅のエピソードから始まる。

60年代初頭から機能性に優れた登山用具を製造していたイヴォンは、1968年のある日、友人のダグからパタゴニアの山に登る旅に誘われた。彼らは、サーフボードや登山用具、旅を記録するための16ミリカメラなどをバンに積み込み、未舗装のパンアメリカン・ハイウェイを南下した。そして、パタゴニアの大自然、未開の地を踏破した経験は、彼らの人生に大きな影響を及ぼすことになった。

そんなプロローグに続いて、この映画の主人公であるジェフ・ジョンソンが登場する。8歳でロッククライミングとサーフィンに魅了され、アウトドアを生き甲斐にする彼は、10年前に伝説の旅の記録映像を見て衝撃を受け、それを追体験する機会をうかがっていた。そして伝説の旅から40年後、彼はメキシコからパタゴニアに向かうヨットにクルーとして乗り込む。

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1月22日(土)より渋谷・シネクイントにて【20日間限定】ロードショー!ほか全国順次公開!(C)2009 180°SOUTH LLC.

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ファティ・アキン『ソウル・キッチン』レビュー



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ハンブルクにあるさえないレストランがアジールに変わるとき

トルコ系ドイツ人のファティ・アキンは、ベルリン国際映画祭グランプリを受賞した『愛より強く』やカンヌ国際映画祭脚本賞を獲得した『そして、私たちは愛に帰る』によって、世界的な注目を集める監督になった。その2作品では、トルコ系ドイツ人というバックグラウンドと結びつくテーマがシリアスに掘り下げられていたが、ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞・ヤングシネマ賞をW受賞した新作『ソウル・キッチン』には、様々な意味で2作品とは異なる方向性が見られる。

この映画は、ハンブルクにあるレストラン“ソウル・キッチン”を中心に展開していくコメディだ。店のオーナー兼シェフは、ギリシャ系のジノス(アダム・ボウスドブコス)。彼が倉庫を買い取り、自分で配管までした店のメニューは、誰でも料理できる冷凍食品ばかりであり、常連客はいるものの、繁盛しているとはいいがたい。

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2011年1月22日(土)よりシネマライズほか全国順次ロードショー!

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趙曄(チャオ・イエ)『ジャライノール』レビュー



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ふたりは「日常」と「記憶」のはざまにある風景を旅する

中国映画界の新鋭チャオ・イエ監督の長編第2作『ジャライノール』は、実に素晴らしい映画だった。

舞台は、ロシアと国境を接する内モンゴル自治区にあるジャライノール炭鉱。そこは蒸気機関車の最後の聖地といわれる場所であり、その広大な風景のなかに、年老いた機関士ジュー・ヨウシアンと、年の離れた後輩リー・ジーチョンの絆が描き出される。

チャオ・イエ監督が見つめるのは明らかに消えゆくものだが、この映画にはノスタルジーとは一線を画す強度がある。

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『ジャライノール』2011年1月15日(土)よりポレポレ東中野にてロードショー!!

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