『エヴァの告白』 劇場用パンフレット

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ジェームズ・グレイでなければ描けないアメリカン・ドリームの物語

2014年2月14日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショーになるジェームズ・グレイ監督の新作『エヴァの告白』(13)の劇場用パンフレットに、上記のようなタイトルで作品評を書いています。キャストは、マリオン・コティヤール、グレイ作品に不可欠な存在になっているホアキン・フェニックス、そしてジェレミー・レナー。

『リトル・オデッサ』『裏切り者』『アンダーカヴァー』『トゥー・ラバーズ』というこれまでの作品では、グレイ監督が生きてきた同時代が背景になっていましたが、新作では1921年、移民の玄関口だったエリス島から物語が始まり、ロウアー・イーストサイドを中心に展開していきます。これは、グレイ監督の祖父母が実際にロシアからエリス島にたどり着き、入国審査を経てアメリカに移住したことが、作品のインスピレーションのひとつになっているからです。

パンフの原稿では、『リトル・オデッサ』や『アンダーカヴァー』などの過去作にも触れ、グレイ監督がどんな影響を受けて独自のスタイルを確立し、新作ではそれがこれまでにない要素とどのように結びついているかを明らかにするような書き方をしていますので、これまでグレイ作品に縁がなかった人にも参考になるかと思います。また、男女の複雑な感情を描き出す脚本と演出の素晴らしさも伝わるかと思います。

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ジェフ・ニコルズ 『MUD‐マッド‐』 レビュー

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サザン・ゴシック、少年のイニシエーション、そして打ちひしがれた男たちの再生

監督第2作の『テイク・シェルター』(11)で日本でも認知されるようになったジェフ・ニコルズは、デビュー当時のあるインタビューで大学時代にコンテンポラリーな南部作家に傾倒していたことに触れ、ラリー・ブラウン、ハリー・クルーズ、コーマック・マッカーシーの名前を挙げていた。

新作『MUD‐マッド‐』(12)は、南部で培われた“サザン・ゴシック”というナラティブ(物語)への愛着が凝縮されたような映画だが、興味深いのはこの作品に続くように、デヴィッド・ゴードン・グリーンや監督もこなすジェームズ・フランコが、それぞれラリー・ブラウンとコーマック・マッカーシーの小説を映画化した『ジョー(原題)』(13)や『チャイルド・オブ・ゴッド(原題)』(13)を発表していることだ。サザン・ゴシックは隠れたトレンドになっているのかもしれない。

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テレンス・マリック 『トゥ・ザ・ワンダー』 レビュー

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彼女を目覚めさせ、解放するもの

テレンス・マリック監督の『トゥ・ザ・ワンダー』には、愛し合う男女や苦悩する神父の姿が描き出されるが、そんな登場人物を追いかけ、物語を見出すだけでは、おそらく深い感動は得られないだろう。マリックが描いているのは、人間ドラマというよりは、人間を含めた世界の姿だといえる。

しかもその世界は誰の目にも同じように見えるわけではない。この映画には、見えない糸が張り巡らされ、それをどうたぐるかによって感知される世界が変わってくるように思えるからだ。

ではなぜマリックはそんな表現を切り拓くのか。おそらく人間中心主義や比較的新しい哲学である環境倫理学と無関係ではないだろう。環境倫理学の創始者のひとりJ・ベアード・キャリコットはその著書『地球の洞察』の日本語版序文で、このようなことを書いている。

西洋哲学は長年にわたって人間中心主義の立場をとり、「自然は『人間』のための支援体制や共同資源、あるいは人間のドラマが展開する舞台に過ぎなかった」。これに対して環境倫理学者たちは、「人間の位置を自然の中に据えて、道徳的な配慮を人間社会の範囲を越えてひろく生物共同体まで拡大しようとした」。

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ポール・グリーングラス 『キャプテン・フィリップス』 レビュー

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見えない力がせめぎ合う状況のなかで、いつしか最前線に立たされている者たちの悲劇

ポール・グリーングラス監督の新作『キャプテン・フィリップス』は、2009年にオマーンの港からケニアに向かうアメリカ籍のコンテナ船がソマリア沖で海賊に襲撃された事件の映画化だ。

乗組員20名、非武装のアラバマ号は、わずか4人のソマリア人海賊にあっけなく占拠される。そして船長のフィリップスには、さらなる苦難が待ち受けている。乗組員を守り、船を解放しようとした彼は、海賊とともに救命艇に乗せられ、人質となってしまう。

この映画は、フィリップスの勇気ある行動に注目が集まるはずだが、見所はそれだけではない。同じように実話を扱ったグリーングラスの過去の作品と新作には共通点がある。

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ゴア・ヴァービンスキー 『ローン・レンジャー』 レビュー

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『パイレーツ』3部作とは異なるアプローチで挑んだジェリー×ゴア×ジョニーの会心作

ジェリー・ブラッカイマー製作、ゴア・ヴァービンスキー監督、ジョニー・デップ主演とくれば、おそらく誰もがこの『ローン・レンジャー』を、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのチームが作り上げた新たなエンターテイメント大作と受けとめることだろう。もちろんそれは間違いではない。

脚本のテッド・エリオットとテリー・ロッシオのコンビや衣装のペニー・ローズ、音楽のハンス・ジマーを含めた『パイレーツ~』のスタッフが再結集し、かつて人気を博したテレビドラマのキャラクターを大胆なアプローチで現代に甦らせている。

たとえば、死の世界から甦ることで誕生するローン・レンジャーや復讐に燃える悪霊ハンターのトントという設定。あるいは、トントが列車の乗客を救う手助けをしたにもかかわらずのっけからお約束のように牢に放り込まれたり、無法者のブッチ・キャヴェンデイッシュが行う残酷な仕打ちが心臓がらみだったりするディテール。そこには、『パイレーツ~』のテイストが形を変えて引き継がれている。

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