ロマン・ポランスキー 『ゴーストライター』 レビュー



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「私は私ではない。あなたは彼でも彼女でもない。彼らは彼らではない」

ロマン・ポランスキーの『ゴーストライター』の主人公は、元英国首相アダム・ラングの自叙伝執筆を依頼されたゴーストライターだ。彼はラングが滞在するアメリカ東海岸の孤島を訪れるが、執筆の作業には不穏な出来事がつきまとう。

前任のライターの事故死には不明な点があった。ラングが対テロ戦争で拷問に加担したというニュースが流れ、マスコミが押し寄せる。ラングの過去を調べだした彼は、いつしか国際政治の暗部に踏み込んでいる。

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イエジー・スコリモフスキ・インタビュー



トピックス

私の実体験とか思いが、何らかのかたちで表れていることは間違いない

17年ぶりに監督した『アンナと過ごした4日間』(08)で見事な復活を遂げたポーランドの鬼才イエジー・スコリモフスキ。待望の新作『エッセンシャル・キリング』(10)では、アフガニスタンにおける戦闘から始まる過酷なサバイバルが描かれる。バズーカ砲で米兵を吹き飛ばした主人公は、米軍に拘束され、拷問を受け、他の捕虜とともに軍用機と護送車でどこかに移送される。ところが、深夜の山道で事故が起こり、彼だけが逃走する。

『アンナ~』と同じように、ポーランドの自宅の周辺を舞台にして、好きなように作れるのならもう1本撮ってもいいと思うようになった。自宅の近くに滑走路を備えた秘密の軍事施設と噂されるものがあることは知っていたが、そういう政治的な題材は、『手を挙げろ!』のことがあるので(※かつて彼はこの作品でスターリン批判をしたとされてポーランドを追われることになった)、考えないようにしていた。ところがある晩、雪の中を運転している時に、その滑走路の近くで道を飛び出してしまった。横転まではいかなかったが、映画の逃走の場面が急に思い浮かび、脚本を書き出した。でも後でポーランドでは雪が足りないことに気づき、ノルウェーに行って-35度のなかで撮影することになった

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イエジー・スコリモフスキ 『エッセンシャル・キリング』 レビュー

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故郷喪失者はどこでもない場所で、動物性への帰郷を果たす

17年ぶりに監督した『アンナと過ごした4日間』(08)で見事な復活を遂げたポーランドの鬼才イエジー・スコリモフスキ。待望の新作はアフガニスタンにおける戦闘から始まり、最初は9・11以後のテロとの戦いを描く作品のように見える。

バズーカ砲で米兵を吹き飛ばした主人公は、米軍に拘束されて捕虜になり、拷問を受け、軍用機と護送車で移送される。ところが、深夜の山道で事故が起き、彼だけが逃走する。

この逃亡劇によって映画の世界は大きく変化していく。そんな流れは筆者に、ジム・ジャームッシュの『ダウン・バイ・ロー』を想起させる。この映画の三部構成は実によくできていた。

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『スリーデイズ』 劇場用パンフレット



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ラッセル・クロウ主演、ポール・ハギス監督最新作!

フランス映画『すべて彼女のために』(ビデオ・タイトル:ラスト3デイズ~すべて彼女のために)をポール・ハギスがリメイクした『スリーデイズ』が本日(9月23日)より公開になります。サスペンス・アクションといわれるような題材でも、ハギスは独自の視点を埋め込み、個人と時代や社会の関係を浮き彫りにしています。

この映画の劇場用パンフレットで、「代償は高くても自由を求める意味を考える」というタイトルのコラムを書いています。『ミリオンダラー・ベイビー』『クラッシュ』『告発のとき』などとの繋がりにも言及したポール・ハギス論になっています。劇場で作品をご覧になったらぜひチェックしてみてください。

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モハメド・アルダラジー 『バビロンの陽光』 レビュー



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息子・父親を探す祖母と孫の旅から浮かび上がるものとは

バグダッドに生まれ、ヨーロッパで映画・テレビの制作を学んだモハメド・アルダラジー監督は、2003年のフセイン政権崩壊後、イラクに帰国し、祖国の現実を反映した作品を撮りだした。『バビロンの陽光』は、2作目の監督作になる。

フセイン政権崩壊から三週間後、イラク北部のクルド人地区に暮らす祖母は、戦地から戻らない息子イブラヒムを探すため、12歳の孫アーメッドと南に向かう。イブラヒムは1991年の湾岸戦争で戦場に送られた。だからアーメッドは父親の顔も知らない。

ふたりが南に向かうのは、戦争でイブラヒムに命を助けられた友人が祖母に宛てた手紙に、彼が南部のナシリア刑務所に収容されていると書かれていたからだ。しかし、戦争からすでに10年以上が過ぎている。

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