フレデリック・フォンテーヌ 『タンゴ・リブレ 君を想う』 レビュー

Review

タイムレスな空間で繰り広げられる大人のおとぎ話

『ポルノフラフィックな関係』で知られるフレデリック・フォンテーヌ監督の新作の主人公は、刑務所の看守として働く孤独な男J.C.だ。彼の生活は単調きわまりないが、週に一度通うタンゴ教室ではいくらかリズムが変わる。

ある日、そのタンゴ教室に30代の女性アリスがやってきて一緒にタンゴを踊ることになる。彼女は15歳の息子がいる母親だったが、J.C.はその色香に心を動かされる。翌日、彼は刑務所の面会室でアリスの姿を目にする。彼女の面会相手はふたり。ひとりは夫で、もうひとりは愛人で、彼らは事件の共犯者だった。

この映画では、J.C.、アリス、夫、愛人の運命が、タンゴを絡めたドラマを通して変わっていく。『ポルノフラフィックな関係』のときもそうだったが、男と女の距離の変化や心の揺れを巧みにとらえてみせるフォンテーヌ監督の手腕が光る。

続きを読む

ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 『少年と自転車』 レビュー

Review

必死にしがみつく少年、誘惑の森、そして媒介としての自転車

カンヌ国際映画祭グランプリを受賞したダルデンヌ兄弟の新作『少年と自転車』(11)では、児童養護施設で暮らす少年シリルと美容院を経営するサマンサとの交流が描かれる。

間もなく12歳になるシリルは、彼を施設に預けた父親とまたいっしょに暮らすことを夢見ていたが、団地に戻ってみると父親はなにも告げずに転居していた。そのときサマンサと出会い、親切にされた彼は、週末を彼女の家で過ごすようになる。

シリルはその週末を使って父親を探し当てるが、戸惑う父親から突き放されてしまう。それを目の当たりにしたサマンサは、真剣にシリルの面倒をみるようになる。だが、かつて同じ施設にいた不良少年ウェスが、彼を巧みに丸め込み、利用しようとする。

続きを読む

『Live at Sint-Elisabethkerk』 by Balmorhea

Listning

ベルギーの教会に広がるテキサスのサウンドスケープ

Balmorheaは、テキサス州オースティンを拠点に活動するインストゥルメンタル・アンサンブル。2006年にRob LoweとMichael Mullerによって結成された。ギター、バンジョー、ピアノなどを操るこのふたりに、ヴァイオリンのAisha Burns、チェロのDylan Rieck、ダブルベースのTravis Chapman、ドラムスのKendall Clarkが加わった6人組である。

筆者は固有の場所性が失われていく状況のなかで、現実に縛られない領域や次元にどのように場所性が見出され、サウンドスケープが生み出されるのかに関心を持っている。もちろん誰もがそれを意識して音楽を作っているわけではないが、Balmorheaの場合はかなり自覚的であるように思う。

たとえば、フィールド・レコーディングとインストゥルメンタルが高度に融合した2作目の『River Arms』では、スモールタウンで過ごした子供の頃の記憶や<The Summer>や<The Winter>というタイトルに表れている季節に対する感覚が場所性に結びついていた。

続きを読む