デヴィッド・O・ラッセル 『アメリカン・ハッスル』 レビュー

Review

積み重なる「偶然」のなかに「必然」を見出す

『世界にひとつのプレイブック』に続くデヴィッド・O・ラッセル監督の新作『アメリカン・ハッスル』は、1979年にアメリカで起きた政治スキャンダル「アブスキャム事件」を題材にしている。事もあろうにFBIが詐欺師と組み、アラブの富豪が経営する投資会社をでっち上げ、おとり捜査によって汚職政治家を摘発したというのがその概要だ。

だが、この映画を楽しむうえで事実は必ずしも重要ではない。ラッセルは事件に迫ろうとしているわけではないので、実名も使っていないし、人物像も脚色されている。但し、大いに笑えるからといって単なるコメディに仕立てているわけでもない。これはラッセル流の人間観察の映画であり、自分探しの物語でもある。

これまで足がつくことなく巧妙に詐欺を繰り返してきたアーヴィンと愛人シドニーのコンビは、ついに逮捕されてしまうが、野心に燃えるFBI捜査官リッチーから、自由と引き換えに先述したようなおとり捜査の話を持ちかけられる。チームになった彼らは、作戦を実行に移すが、アーヴィンの妻ロザリンが夫とシドニーの関係に嫉妬し、思わぬ行動に出たため、予期せぬ混乱状態に陥っていく。

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『WIN WIN(ウィンウィン)ダメ男とダメ少年の最高の日々』 『ディクテーター 身元不明でニューヨーク』 『ダークナイト ライジング』 試写

試写室日記

本日は試写を3本。

『WIN WIN(ウィンウィン)ダメ男とダメ少年の最高の日々』 トム・マッカーシー

デビュー作の『ステーション・エージェント』(03)と2作目の『扉をたたく人』(07)の成功によって、インディペンデント映画の期待の星となったトム・マッカーシー監督の待望の新作。

前2作の主人公や物語の構成には共通点があった。ある事情で人を遠ざけるようになった孤独な主人公が、別な事情で孤立している他者と偶然に出会い、次第に心を開き、自分の気持ちに正直に行動するようになる。

この新作の物語もそれらと似た構成のように見える。不況で仕事がなく、ストレスに悩まされるさえない弁護士マイクが、ひょんなことから家出してきた青年カイルに出会い、生活が一変する。前2作では、「鉄道」や「音楽」が主人公と他者を結びつけたように、新作では「レスリング」がマイクとカイルを結びつける。

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