『サード・パーソン』 劇場用パンフレット

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三つの物語から浮かび上がる作家の葛藤と再生

2014年6月20日(金)よりTOHOシネマズ日本橋ほか全国ロードショーになるポール・ハギス監督の新作『サード・パーソン』の劇場用パンフレットに上記のようなタイトルで作品評を書いています。

この映画では、パリ、ローマ、ニューヨークという3つの都市を舞台に、3組の男女の関係が並行して描かれていきます。ところが物語が展開するうちに、普通ではありえないことが起こり、必ずしもリアリズムに立脚した作品ではないことに気づきます。

監督のハギスが「これは3つのラブストーリーのフリをしているけれど、実はパズルのような映画なんだ」(『サード・パーソン』公式サイト)と語っているように、この映画には、劇中に散りばめられたヒントを手がかりに、複雑な繋がりを読み解いていく楽しみがあります。(ちなみに、公式サイトには、ネタバレ不問でそれぞれの解釈を紹介するコーナーがあり、筆者も寄稿していますが、パンフレットの原稿とは違った切り口になっています)

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ジョシュア・オッペンハイマー・インタビュー 『アクト・オブ・キリング』:世界を私たちと彼ら、善人と怪物に分けるのではなく

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アンワル・コンゴとの出会い

60年代のインドネシアで共産主義を排除するために行われた100万人規模といわれるジェノサイド。世界に衝撃を与えたジョシュア・オッペンハイマー監督の『アクト・オブ・キリング』は、この悲劇が過去のものではないことを私たちに思い知らせる。北スマトラで取材を進めていたオッペンハイマーは、虐殺の実行者たちがいまも大手を振って町を闊歩し、過去の殺人を誇らしげに語るのを目にし、自分たちで好きなように殺人を再現し、映画にすることを提案した。

もちろんこれは加害者であれば誰にでも通用するアイデアではない。映画作りの先頭に立つアンワル・コンゴは、映画館を根城にする“プレマン”と呼ばれるギャングだった。アメリカ文化に強い影響を受けている彼とその取り巻きは、映画スター気取りで殺人者を演じ、虐殺を再現していく。この映画で重要な位置を占めるのはそんなアンワルの存在だが、オッペンハイマーが彼に出会うまでには紆余曲折がある。

私が最初にインドネシアに行ったのは、プランテーションの労働者たちが映画を作るのを手伝うためでした。その『The Globalization Tapes』(03)を作っているときに、労働者たちが65年のジェノサイドの生存者であることを知りました。ベルギーの企業のために働く彼らは、防護服もないまま有害な除草剤を散布し、その毒性で肝臓をやられ40代で亡くなった人もいました。企業が扱っているのは、私たちの身の周りにある化粧品などに使われるパーム油です。そして労働者が組合や署名などで抵抗しようとすると、『アクト・オブ・キリング』に登場する準軍事組織、パンチャシラ青年団が企業に雇われ、彼らを脅迫や暴行で黙らせるのです。彼らは、両親や祖父母が組合員だったというだけで共産党の支持者とみなされパンチャシラ青年団に虐殺されているので、そういう脅迫により恐怖を感じるのです。私は、西欧や日本の日々の生活というものが、いかに他人の苦しみの上に築かれているのかを実感しました

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ジョエル&イーサン・コーエン 『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』 レビュー

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名もなきシンガーと入れ替わる猫と死者の気配をめぐる一週間の物語

1961年のニューヨーク、グリニッジ・ヴィレッジを舞台にした『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』は、コーエン兄弟が、伝説のフォーク・シンガー、デイヴ・ヴァン・ロンクの回想録にインスパイアされて作り上げた作品だ。主人公はフォーク・シンガーのルーウィン・デイヴィスで、映画のタイトルもアルバム『インサイド・デイヴ・ヴァン・ロンク』を意識したものになっているが、だからといってヴァン・ロンクの世界に迫ろうとしているわけではないし、当時の音楽シーンを再現しようとするわけでもない。

ルーウィンの物語は、情けないエピソードの羅列に見える。出したレコードは売れない。金も住む場所もないため、知人の家を泊まり歩くしかない。さらに宿を借りるだけではなく、手を出してしまった女友達からは妊娠を告げられる。だが、そんなルーウィンの世界が次第にじわじわと心にしみてくる。情けないエピソードの羅列のなかに、彼が心の奥に秘めている感情が見え隠れするからだ。

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『オール・イズ・ロスト~最後の手紙~』 映画.com レビュー

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男はすべてを失うとき、なにかを悟る

2014年3月14日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿シネマカリテほか全国ロードショーになるJ・C・チャンダー監督の新作『オール・イズ・ロスト~最後の手紙~』(13)に関する告知です。「映画.com」の3月4日更新の映画評枠で、上記のようなタイトルで本作のレビューを書いています。

人生の晩年を迎え、自家用ヨットでインド洋を単独航海する男。ところが突然、ヨットが海上の漂流物に衝突するという事故に見舞われたことから、男の運命が一変し、過酷なサバイバルを強いられることになります。

舞台は大海原、登場人物はロバート・レッドフォードが演じる名前も定かではない男ただひとり。台詞もほとんど無きに等しいといっていいでしょう。アルフォンソ・キュアロン監督の『ゼロ・グラビティ』を連想する人もいるかもしれません。

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ゴア・ヴァービンスキー 『ローン・レンジャー』 レビュー

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『パイレーツ』3部作とは異なるアプローチで挑んだジェリー×ゴア×ジョニーの会心作

ジェリー・ブラッカイマー製作、ゴア・ヴァービンスキー監督、ジョニー・デップ主演とくれば、おそらく誰もがこの『ローン・レンジャー』を、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのチームが作り上げた新たなエンターテイメント大作と受けとめることだろう。もちろんそれは間違いではない。

脚本のテッド・エリオットとテリー・ロッシオのコンビや衣装のペニー・ローズ、音楽のハンス・ジマーを含めた『パイレーツ~』のスタッフが再結集し、かつて人気を博したテレビドラマのキャラクターを大胆なアプローチで現代に甦らせている。

たとえば、死の世界から甦ることで誕生するローン・レンジャーや復讐に燃える悪霊ハンターのトントという設定。あるいは、トントが列車の乗客を救う手助けをしたにもかかわらずのっけからお約束のように牢に放り込まれたり、無法者のブッチ・キャヴェンデイッシュが行う残酷な仕打ちが心臓がらみだったりするディテール。そこには、『パイレーツ~』のテイストが形を変えて引き継がれている。

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