アントニオ・チャバリアス 『フリア よみがえり少女』 レビュー



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喪失感が罪悪感につながり、喪失感が罪悪感をよみがえらせる

38歳のダニエルと34歳のラウラの夫婦は、ともに同じ小学校に勤める教師で、子宝に恵まれないことに悩んでいる。そんなある日、マリオという男が学校にダニエルを訪ねてくる。彼はダニエルが子供の頃に親しかった友人だが、その後は疎遠になっていた。なにかに怯えるマリオは自分の娘のフリアに会ってほしいと懇願するが、意味がわからないダニエルは病院に行くことを勧め、突き放してしまう。

それから間もなく夫婦は、マリオが自殺したことを知る。マリオの葬儀に参列した彼らは、故人の娘フリアが養護施設に入れられていることを知り、一時的に預かることにする。だが、以前からダニエルを知っているかのようなフリアの発言や態度が、彼にある少女のことを思い出させ、精神的に追い詰めていく。

ダニエルが封印した忌まわしい過去は、そんなドラマと並行してフラッシュバックによって徐々に明らかにされていく。その夏、ダニエル少年は、父親が再婚を考えていたルイサと彼女のふたりの子供マリオとクララと一緒に過ごすことになる。だが数日後、ダニエルやマリオと一緒だったはずのクララが、墓地で遺体となって発見され、再婚は白紙となった。

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『ハッシュパピー バスタブ島の少女』 映画.com レビュー+サントラの話

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海上他界信仰を通して描き出される荒々しく深いイニシエーション

「映画.com」の本日(4月9日)更新の映画評枠で、上記のようなタイトルで、4月20日公開のベン・ザイトリン監督『ハッシュパピー バスタブ島の少女』(12)のレビューを書いています。その告知のついでに、レビューのテキストを補完するようなことを書いておきます。

特に音楽についてです。監督のベン・ザイトリンは、ミュージシャン/プロデューサーのダン・ローマーとともに音楽も手がけています。彼の映画では、音楽が重要な位置を占めています。というのも、彼は高校や大学時代には、バンドで活動したりミュージカルを創作するというように、まずなによりも音楽に関心を持っていました。ちなみに演奏する楽器は主にギターで、ピアノもこなすようです。

そんなザイトリンにとっては映像と音楽は対等なものであって、どちらも共通のイマジネーションから生み出され、深く結びついています。筆者は『ハッシュパピー バスタブ島の少女』試写室日記で、この映画の音楽について、「マイケル・ナイマンとバラネスク・カルテットがレクイエムを奏でているようなテイストもある」と書きました。

以下のYouTubeは、ザイトリンとローマーも参加したサントラの1曲<Once There Was a Hushpuppy>の演奏風景を収めたものです。筆者はすぐにナイマンを連想しますが、それは間違いではなかったようです。

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ロバート・ゼメキス 『フライト』 レビュー01



Review

巡り合せが啓示に見えるゼメキスの奥深さ

ロバート・ゼメキスが久しぶりに実写に挑んだ『フライト』は、冒頭から私たちを一気に映画の世界に引き込む。

前の晩に客室乗務員と盛り上がった機長ウィトカーは、コカインで景気をつけてフライトに臨み、機内でも人目を盗んで酒を飲んでいる。驚きはそれだけではない。

なんらかの故障で機体が制御不能に陥ると、背面飛行という離れ業で危機を切り抜け、奇跡ともいえる緊急着陸を成し遂げる。だが、彼の血液中からアルコールが検出され、公聴会が開かれることになる。

ゼメキスが切り拓く世界では、“巡り合せ”が重要な位置を占めている。彼の作品の主人公は、個人の意志や能力だけで壁を乗り越えたり、なにかを達成するわけではない。

『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94)の主人公は、母親の教えを愚直に守っているに過ぎないが、巡り合せが彼を聖人にし、望むべくもなかった家族をもたらす。『キャスト・アウェイ』(00)で無人島に囚われた主人公を変えるのは、島に流れ着いた簡易トイレの残骸であり、「潮がなにかを運んでくる」が彼の人生訓になる。

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今週末公開オススメ映画リスト2013/04/04

週刊オススメ映画リスト

今回は『海と大陸』『君と歩く世界』『ホーリー・モーターズ』『アントン・コービン 伝説のロック・フォトグラファーの光と影』の4本です。

『海と大陸』 エマヌエーレ・クリアレーゼ

2011年のヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞に輝いたイタリアの俊英エマヌエーレ・クリアレーゼ監督の作品です(前作の『新世界』は2006年に同じ映画祭で銀獅子賞を受賞しています)。

同じイタリアのアンドレア・セグレ監督の『ある海辺の詩人―小さなヴェニスで―』レビューのなかで、筆者はセグレ監督が移民問題を題材にしたドキュメンタリーを監督していると書きました。『Come un uomo sulla terra / Like a Man on Earth』(08)では、リビアから地中海を渡ってイタリアにたどり着いた難民たちが苦難の道程を自ら語り、『Mare chiuso / Closed Sea』(12)では、イタリアとリビアの間で結ばれたアフリカ難民をめぐる協定の実態が明らかにされています。

シチリアと北アフリカの中間に位置するペラージェ諸島を舞台にした本作でも、アフリカ難民をめぐる問題が取り上げられています。それだけでなく、マッテオ・ガッローネ監督の『ゴモラ』レビューで書いたようなイタリアの南北問題と結びつけられているところも見逃せません。外部と内部の問題を交差させ、中央ではなく周縁から社会を見る視点が、作品を深いものにしています。

月刊「宝島」2013年5月号(3月25日発売)の連載コラムでレビューを書いていますので、ぜひお読みください。

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今週末公開オススメ映画リスト2013/03/28

週刊オススメ映画リスト

今回は、『ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの』『隣人 ネクストドア』『チャイルドコール 呼声』の3本に、“フレンチ・フィーメイル・ニューウェーブ”で特集上映される3作品『グッバイ・ファーストラブ』『スカイラブ』『ベルヴィル・トーキョー』を加えた計6本です。

『ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの』 佐々木芽生

2010年に公開されてロングランを記録したドキュメンタリー『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』の続編です。但し、前作を観ていなくともわかるような構成になっています。この2作品の魅力は、“小さいことがとても大きなものにつながる”という言葉に集約できます。

郵便局員と図書館司書だったハーブとドロシー夫妻は、独自の審美眼と類希な情熱で、お給料で買えて1LDKのアパートに収まるアートを買い集め、それがいつしか世界でも屈指の歴史に残るアートコレクションになります。ふたりはそのコレクションを一点も売ることなく、アメリカの国立美術館に寄贈します。それが前作の物語でした。

この続編では、その国立美術館でさえも夫妻の大量のアートをすべて受け入れることが不可能であることが判明し、全米50州の美術館に50作品ずつ、計2500点を寄贈するプロジェクトが動き出します。そのプロジェクトが背景になっているので、ハーブとドロシーとともに、全国に散っていったコレクションを訪ねて歩くロード・ムービーと見ることもできます。

ハーブとドロシーはコレクターとして作品を買うだけではなく、アーティストの成長や作品の変化を追いかけ、その本質を知ろうとすることによって、アーティストたちと親密な関係を築き上げてきました。そういう意味では、ハーブとドロシーが親で、アーティストが子供たちで、彼らの作品が孫ともいえます。この映画は、コレクションが分散するという難しい選択を通して、そんな親密な関係を再確認していく物語ともいえます。

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