『There He Unforeseen』 by Hallock Hill

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陽光が差し込む板壁の向こうとこちらにはどんな世界が広がっているのか

Hallock HillことTom Leckyの『The Union』については、以前にアルバム日記で取り上げたが、早くも新しいアルバム『There He Unforeseen』が登場した。『The Union』のジャケット・アートは、巨大なシャンプレーン湖にたつ波のイメージだったが、こちらは自然そのものではなく、小屋の板壁の隙間から陽光が差し込むイメージだ。そして中身も、楽器やスタイルなど異なる空間が広がっている。

there he unforeseen

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『Live at Sint-Elisabethkerk』 by Balmorhea

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ベルギーの教会に広がるテキサスのサウンドスケープ

Balmorheaは、テキサス州オースティンを拠点に活動するインストゥルメンタル・アンサンブル。2006年にRob LoweとMichael Mullerによって結成された。ギター、バンジョー、ピアノなどを操るこのふたりに、ヴァイオリンのAisha Burns、チェロのDylan Rieck、ダブルベースのTravis Chapman、ドラムスのKendall Clarkが加わった6人組である。

筆者は固有の場所性が失われていく状況のなかで、現実に縛られない領域や次元にどのように場所性が見出され、サウンドスケープが生み出されるのかに関心を持っている。もちろん誰もがそれを意識して音楽を作っているわけではないが、Balmorheaの場合はかなり自覚的であるように思う。

たとえば、フィールド・レコーディングとインストゥルメンタルが高度に融合した2作目の『River Arms』では、スモールタウンで過ごした子供の頃の記憶や<The Summer>や<The Winter>というタイトルに表れている季節に対する感覚が場所性に結びついていた。

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『Wolf Notes』 by AR (Autumn Richardson and Richard Skelton)

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ランカシャーからカンブリアへ―スケルトンの新たな試み=AR

リチャード・スケルトン(Richard Skelton)の『Landings』についてはレビューをアップしたが、彼はその先にどのようなサウンドスケープを切り拓こうとしているのか。どこかのサイトのインタビューでは、A Broken Consort名義の新作を出すと語っていたような気もする。しかし一方では、これまでとは違う試みにも挑戦している。

ARはSkeltonの新たなプロジェクトだ。これはひとりの作業ではなく、ヴォーカリスト、Autumn Richardsonとのコラボレーションである。スケルトンの音楽では場所が重要な意味を持っている。これまでの作品ではその場所は、彼が暮らすランカシャーのWest Pennine Mooreや、家から遠くないところにあり、かつて農民が暮らした家屋の廃墟が残るAnglezarke Mooreだった。

●Type recordsによる『Wolf Notes』Stream
AR – Wolf Notes by _type

しかし、ARの『Wolf Notes』ではランカシャーからさらに北に向かう。カンブリア州にあるUlphaの風景、地名、動植物などにインスパイアされ、この土地へのオマージュになっている。

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『Red Planet』 by Arborea

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メイン州の豊かな自然、媒介としての音楽

『Red Planet』は、Arboreaのニューアルバムだ。Arboreaは、Buck CurranとShanti Curranという夫婦のユニットで、メイン州を拠点に活動している。

たとえば、ニューオーリンズを拠点に活動するグループHurray for the Riff Raffや、このArboreaの音楽には、“メディア”という言葉がかつて持っていた意味を思い出させるような独特の響きを感じる。

加藤秀俊の『メディアの発生――聖と俗をむすぶもの』(中央公論新社、2009年)では、メディアが持っていた意味がこのように説明されている。「その原型になっているのは聖俗をつなぐ「霊媒」のことでもあったのだ。そのような意味での「メディア」は現代の文明世界でもけっして消滅したわけではない

『Red Planet』 (2011)

もちろん、たとえばすでにこのブログで取り上げているJana WinderenやRichard Skeltonの音楽にもそれは当てはまる。にもかかわらず、ここで特にHurray for the Riff RaffとArboreaに注目しようとするのにはわけがある。

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『The Union』 by Hallock Hill

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生まれた場所、アップステイトへのオマージュ

Hallock Hillは、Tom Leckyのペンネームで、そこには彼が生まれたニューヨーク州のアップステイトの田園地帯へのオマージュが込められているという。

アルバム『The Union』は、ギターのループや即興を思わせるメロディなどを重ねて作られた美しいサウンドスケープだ。

Hallock Hillのブログを読むと、彼がRichard Skeltonのファンであることがわかる。その音作りも、ただ自然や場所を意識するだけではなく、風景にまつわる記憶を掘り下げ、隠れた歴史を音で表現しようとしているところが、Skeltonに通じるものがある。

union

The Union (2011)

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