『エッセンシャル・キリング』試写

試写室日記

本日は試写を1本。

『エッセンシャル・キリング』 イエジー・スコリモフスキ

『アンナと過ごした4日間』で見事な復活を遂げたポーランドの巨匠スコリモフスキの新作。主演はヴィンセント・ギャロ。ヴェネチア国際映画祭で、審査員特別賞と主演男優賞を獲得している。

作品の構造は、ジャームッシュの『ダウン・バイ・ロウ』を想起させる。『ダウン・バイ・ロウ』では、一部のニューオーリンズから二部の刑務所、そして三部の脱獄後の空間へと、情報や記号が消し去られていき、主人公たちは時代も場所も定かではないどこでもない場所へと彷徨いだす。

スコリモフスキはそれを9・11以後の世界でやってしまう。アフガニスタンから始まり、捕虜として収容所に連行され、逃亡の先にはどこでもない場所が広がる。

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ベン・アフレック 『ザ・タウン』レビュー



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土地そのものとの関係が希薄な幻想の共同体と確かな感触を持つ土を媒介にした絆

ベン・アフレックの監督第2作、チャック・ホーガンのミステリー『強盗こそ、われらが宿命<さだめ>』を映画化した『ザ・タウン』でまず興味をそそられるのは、物語の舞台となるマサチューセッツ州チャールズタウンだ。

ボストンの北東部に位置し、住民たちが“タウン”と呼ぶこの地域は、他のどの地域よりも多くの銀行強盗、現金輸送車強盗を生み出してきた。もちろんそれには理由がある(ことになっている)。かつてチャールズタウンには凶悪犯罪者用の最重要警備刑務所が存在し、その刑務所が移転したあとも、犯罪者の共同体が残った。

アフレックがそんな背景に関心を持っていたことは、プレスに収められら彼のコメントから察せられる。

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クリス・マロイ 『180° SOUTH/ワンエイティ・サウス』レビュー

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1968年から2008年の間に自然と人間の関係はどう変化したか

クリス・マロイ監督のドキュメンタリー『180°SOUTH/ワンエイティ・サウス』は、「patagonia」と「THE NORTH FACE」という世界的なアウトドア・ブランドの創業者であるイヴォン・シュイナードとダグ・トンプキンスがかつて成し遂げた伝説の旅のエピソードから始まる。

60年代初頭から機能性に優れた登山用具を製造していたイヴォンは、1968年のある日、友人のダグからパタゴニアの山に登る旅に誘われた。彼らは、サーフボードや登山用具、旅を記録するための16ミリカメラなどをバンに積み込み、未舗装のパンアメリカン・ハイウェイを南下した。そして、パタゴニアの大自然、未開の地を踏破した経験は、彼らの人生に大きな影響を及ぼすことになった。

そんなプロローグに続いて、この映画の主人公であるジェフ・ジョンソンが登場する。8歳でロッククライミングとサーフィンに魅了され、アウトドアを生き甲斐にする彼は、10年前に伝説の旅の記録映像を見て衝撃を受け、それを追体験する機会をうかがっていた。そして伝説の旅から40年後、彼はメキシコからパタゴニアに向かうヨットにクルーとして乗り込む。

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1月22日(土)より渋谷・シネクイントにて【20日間限定】ロードショー!ほか全国順次公開!(C)2009 180°SOUTH LLC.

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ファティ・アキン『ソウル・キッチン』レビュー



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ハンブルクにあるさえないレストランがアジールに変わるとき

トルコ系ドイツ人のファティ・アキンは、ベルリン国際映画祭グランプリを受賞した『愛より強く』やカンヌ国際映画祭脚本賞を獲得した『そして、私たちは愛に帰る』によって、世界的な注目を集める監督になった。その2作品では、トルコ系ドイツ人というバックグラウンドと結びつくテーマがシリアスに掘り下げられていたが、ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞・ヤングシネマ賞をW受賞した新作『ソウル・キッチン』には、様々な意味で2作品とは異なる方向性が見られる。

この映画は、ハンブルクにあるレストラン“ソウル・キッチン”を中心に展開していくコメディだ。店のオーナー兼シェフは、ギリシャ系のジノス(アダム・ボウスドブコス)。彼が倉庫を買い取り、自分で配管までした店のメニューは、誰でも料理できる冷凍食品ばかりであり、常連客はいるものの、繁盛しているとはいいがたい。

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2011年1月22日(土)よりシネマライズほか全国順次ロードショー!

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趙曄(チャオ・イエ)『ジャライノール』レビュー



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ふたりは「日常」と「記憶」のはざまにある風景を旅する

中国映画界の新鋭チャオ・イエ監督の長編第2作『ジャライノール』は、実に素晴らしい映画だった。

舞台は、ロシアと国境を接する内モンゴル自治区にあるジャライノール炭鉱。そこは蒸気機関車の最後の聖地といわれる場所であり、その広大な風景のなかに、年老いた機関士ジュー・ヨウシアンと、年の離れた後輩リー・ジーチョンの絆が描き出される。

チャオ・イエ監督が見つめるのは明らかに消えゆくものだが、この映画にはノスタルジーとは一線を画す強度がある。

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『ジャライノール』2011年1月15日(土)よりポレポレ東中野にてロードショー!!

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