『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』 劇場用パンフレット

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寄り道とサイレントを愛するアレクサンダー・ペインの美学

2014年2月28日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ&新宿武蔵野館ほかにて全国ロードショーになるアレクサンダー・ペイン監督の新作『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(13)の劇場用パンフレットに、上記のようなタイトルで作品評を書いています。キャストは、ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ、ジューン・スキッブ、ボブ・オデンカーク。

“モンタナ州のウッドロウ・グラント様 貴殿は100万ドルに当選しました”――誰が見ても古典的でインチキな手紙を、すっかり信じてしまったウディは、はるか彼方のネブラスカ州リンカーンまで、歩いてでも賞金を取りに行くと言ってきかない。息子のデイビッドは、大酒飲みで頑固な上に年々思い込みが激しくなっていくウディとは距離を置いていた。だが、母と兄に止められても決して諦めようとしない父を見兼ね、骨折り損だと分かりながらも彼を車に乗せて、4州にわたる旅に出る。[ プレスより]

ギリシャ系の監督ペイン(本名:パパドプロス)とギリシャのアテネ生まれの撮影監督フェドン・パパマイケル(彼のキャリアの出発点にはギリシャ系のジョン・カサヴェテスという存在があり、息子のニック・カサヴェテスとも仕事をしている)。そんなギリシャ・コネクションが生み出した、独特の雰囲気を醸し出すモノクロ映像が素晴らしいです。

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ダニー・ボイル 『トランス』 レビュー

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記憶の迷宮でせめぎ合う男女の欲望

ダニー・ボイル監督の『トランス』は、白昼のオークション会場からゴヤの「魔女たちの飛翔」が強奪されるところから始まる。40億円の名画を奪ったのは、密かにギャングと手を組んだ競売人のサイモンだったが、なぜか途中で計画とは違う行動に出た彼は、ギャングのリーダーであるフランクに殴られ、絵画の隠し場所の記憶を失ってしまう。

そこで催眠療法士のエリザベスが雇われ、記憶を取り戻そうとする。しかし、そのエリザベスには秘密があり、療法を受けるサイモンの頭のなかでは、主人公たちを翻弄するように記憶が迷宮と化していく。

自分を取り巻く世界を思い通りにしたいという欲望は誰もが持っているものだが、それにとらわれすぎれば深刻なトラブルに巻き込まれる。ダニー・ボイルはこれまで様々な設定でそんなドラマを描き出してきた。

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トーマス・イムバッハ 『終わりゆく一日』 特別寄稿



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時の流れと喪失を鮮やかに浮き彫りにする普遍的な物語

2013年10月26日(土)よりユーロスペースほかで全国順次公開になるトーマス・イムバッハ監督のスイス映画『終わりゆく一日』のプレス用に上記のタイトルのレビューを寄稿しています。

この映画の世界は、ユニークな素材の組み合わせで構築されています。まず、チューリッヒにあるイムバッハの仕事部屋から見える風景の映像です。彼は窓の外に広がる見事なパノラマに魅了され、15年以上に渡って撮り続けてきました。その映像には、郊外にそびえる巨大な煙突ともくもくと立ち上る煙、青空と様々に形を変えていく雲、飛び立つ旅客機、駅を行き来する列車、そして変貌を遂げていく目の前の工場地帯などが記録されています。

次に、留守番電話に残されたメッセージです。まだ新しかったこの装置に夢中になった彼は、メッセージを消去せずに収集してきました。そこには、父親の死や息子の誕生、家庭の崩壊などにまつわる言葉が刻み込まれています。

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『ポルトガル、ここに誕生す~ギマランイス歴史地区』 レビュー

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世界文化遺産という共通の歴史と独自の世界観を持つ監督たちが奏でる不協和音

ポルトガルから届けられたオムニバス映画『ポルトガル、ここに誕生す』を楽しむためには、この企画の発端を頭に入れておく必要がある。

ポルトガル北西部に位置する古都ギマランイスは、〝ポルトガル発祥の地〟とされ、旧市街地が2001年に(映画の副題にもなっている)〝ギマランイス歴史地区〟としてユネスコの世界文化遺産に登録されている。そんな街がEUによって2012年の〝欧州文化都市〟に指定され、一年間にわたって様々な文化事業が繰り広げられることになり、その一環としてこの映画が製作された。

そこでまず確認しておきたいのは、文化遺産と映画の相性だ。筆者が思い出すのは、フランスの古典学者フランソワ・アルトーグの『「歴史」の体制』のことだ。本書によれば、フランスでは、80年代に記憶と遺産の大ブームが起こり、90年代に遺産化が加速したという。その遺産化のなかで、遺産建造物が法令によってこう定義される。

我々の遺産、それは我々の歴史の記憶であり、我々の国家的同一性の象徴である

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『トランス』 劇場用パンフレット

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記憶の迷宮でせめぎ合う男女の欲望

2013年10月11日(金)より全国ロードショー公開になるダニー・ボイル監督の新作『トランス』の劇場用パンフレットに上記のタイトルでレビューを書いています。主演は、ジェームズ・マカヴォイ、ヴァンサン・カッセル、ロザリオ・ドーソン。『シャロウ・グレイブ』や『ザ・ビーチ』でボイルと組んだジョン・ホッジが脚本に参加しています。

物語は白昼のオークション会場からゴヤの「魔女たちの飛翔」が盗まれるところから始まります。40億円の名画を奪ったのは、ギャングと手を組んだ競売人のサイモンですが、なぜか計画とは違う行動に出た彼は、ギャングのリーダー、フランクに殴られ、絵画の隠し場所の記憶を失ってしまいます。そこで催眠療法士エリザベスが雇われますが、サイモンの頭のなかでは、主人公たちを翻弄するように記憶が迷宮と化していきます。

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