今週末公開オススメ映画リスト2013/03/21

週刊オススメ映画リスト

今回は『ザ・マスター』『長嶺ヤス子 裸足のフラメンコ』『暗闇から手をのばせ』の3本です。

『ザ・マスター』 ポール・トーマス・アンダーソン

PTAの持つ強烈なオブセッションとそれを映像で表現しきってしまう豪腕ぶりに息をのみます。まずは『ザ・マスター』試写室日記をお読みください。

「キネマ旬報」2013年4月上旬号(3月20日発売)の『ザ・マスター』特集で、監督インタビュー、作品論、監督論につづくかたちで、「『ザ・マスター』とアメリカの50年代」というタイトルのコラムを書いております。ぜひお読みください。

映画はフィクションですが、PTAはサイエントロジーの始まりの時期をかなり詳しく調べ、ランカスター・ドッドという人物を創造しています。試写室日記では、サイエントロジーの実態に迫ったローレンス・ライトの『Going Clear』を取り上げましたが、「キネマ旬報」の原稿では、歴史学者ヒュー・B・アーバンの『The Church of Scientology: A History of a New Religion』を参考にしました。想像にすぎませんが、PTAも参考にしているように思えます。

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大宮浩一 『長嶺ヤス子 裸足のフラメンコ』 レビュー

Review

見放された犬や猫との触れ合い、瞬間のなかに永遠を見る

最近の「New York Times」で、スペインのフラメンコに関する記事を目にした。その記事は、フラメンコのメッカ、セビリアでフラメンコを教えているダンサー/講師の話から始まる。彼女の教室には10名の女性が通っているが、そのうちスペイン人はひとりだけで、他は日本人、中国人、ドイツ人、イギリス人、デンマーク人、イスラエル人の生徒だという。

10年前には外国人の生徒の比率は4割だったが、9割まで上昇した。その背景には、スペインにおける景気後退や失業率の増加があるようだ。その記事には、フラメンコの存続は国際化にかかっている、という専門家の言葉も引用されている。

昭和11年に福島県に生まれた長嶺ヤス子は、昭和35年に単身スペインに渡った。その当時、フラメンコはスペイン人やロマ(シプシー)が踊るものと考えられ、日本人がステージに立つのはあり得ないことだった。彼女はフラメンコダンサーとして20年間スペインに留まり、帰国後は、和楽、古典を取り入れた創作舞踏により、国際的ダンサーとしての評価を得た。

このドキュメンタリーでは、そんな長嶺の烈しいフラメンコが映し出される。三味線をバックに着物で踊るパフォーマンスは独創的だ。東日本大震災から間もない2011年の春に直腸がんが見つかって入院するものの、手術を経て退院からわずか一ヶ月でステージに立っているその精神力や体力にも驚かされる。

しかし、それだけでは一本の作品としてこの映画に引き込まれることはなかっただろう。

長嶺は30年ほど前のある日、一匹の猫を轢き殺してしまった。そのとき、そのまま猫を置き去りにしようと考えた自分に対して、人間の、自分自身の恐ろしさを感じたことがきっかけで、困っている動物は必ず助けようと決心した。

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