マッテオ・ガッローネ 『ゴモラ』 レビュー

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カモッラの実態に迫ることは、イタリアとはなにかを問うことでもある

2008年にカンヌ国際映画祭でグランプリを獲得したマッテオ・ガッローネ監督の『ゴモラ』では、イタリア南部ナポリを拠点に絶大な権力を振るう犯罪組織“カモッラ”の世界が描き出される。彼らの支配は麻薬取引や武器密輸からファッションブランドの縫製や産業廃棄物の処理事業にまで及び、組織に従わない者は冷酷に排除されていく。

映画の原作である『死都ゴモラ』の著者ロベルト・サヴィアーノは、自らカモッラに潜入し、その実態を明らかにしてみせた。それだけにこの映画にはドキュメンタリーのようにリアルな空気が漂っているが、魅力はそれだけではない。

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デブラ・グラニック 『ウィンターズ・ボーン』 レビュー

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ホモソーシャルな連帯とミソジニー、そしてもうひとつのスピリット

アメリカのなかでアパラチアやミズーリ州オザーク地方に暮らす人々は、“ヒルビリー”と呼ばれ蔑まれてきた。注目の新鋭女性監督デブラ・グラニックがミズーリ州でオールロケを行い、現地住民も含むキャストで撮り上げたこの『ウィンターズ・ボーン』には、彼らの独自の世界が実にリアルに描き出されている。

心を病んだ母親に代わって幼い弟と妹を引き受け、一家の大黒柱になることを余儀なくされた17歳の娘リーに、さらなる難題がふりかかる。とうの昔に家を出た麻薬密売人の父親が逮捕されたあげく、土地と家を保釈金の担保にして行方をくらましてしまったのだ。彼女は家族を守るためになんとか父親を探し出そうとするが…。

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『80年代アメリカ映画100』ついに完成!



News

現在から見直すアメリカ80年代
2011年12月22日発売

今年、作業を進めてきた大きなお仕事といえば、『80年代アメリカ映画100』と『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)の2冊。2010年12月に刊行された『ゼロ年代アメリカ映画100』の姉妹編です。『ゼロ年代~』ではコラムの執筆者のひとりでしたが、今回は編集にも参加させていただきました。

  • 『80年代アメリカ映画100』(2011年12月22日発売)
    [監修]北沢夏音 [主編]渡部幻 [編集]大場正明、佐野亨
  • 『90年代アメリカ映画100』(2012年発売予定)
    [監修]大場正明 [主編]佐野亨 [編集]北沢夏音、渡部幻

という布陣です。

そしてまず『80年代アメリカ映画100』が発売になりました。豪華執筆陣や作品のラインナップについては以下リンクでチェックしていただければと思います。
芸術新聞社 80年代アメリカ映画100

『80年代アメリカ映画100』

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『RIVER』 『NINIFUNI』 試写



試写室日記

本日は試写を2本。

『RIVER』 廣木隆一

秋葉原の無差別殺傷事件で恋人を失ったヒロインが、秋葉原で恋人の痕跡をたどり、様々な人物との出会いを通して次第に立ち直り、未来に踏み出していく。

秋葉原の事件を題材にした作品で筆者が思い出すのは、佐々木友輔監督の『夢ばかり、眠りはない』だ。あの映画では、事件へのこだわりや、それを題材にする必然性が感じられたし、秋葉原から取手の郊外へと視点が移行していく展開にも説得力があった。

この『RIVER』の場合は、その必然性が弱い。事件は、秋葉原を舞台にした世代論的なドラマを描くためのきっかけにとどまっている。どうしてもこの事件でなければ表現できない喪失と再生の物語になってはいない。それを東日本大震災の被災地の光景と接続してしまうと、さらに焦点がぼやける。

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『J・エドガー』試写

試写室日記

本日は試写を1本。

『J・エドガー』 クリント・イーストウッド

J・エドガー・フーヴァーという題材は最初に聞いたときには意外な気がしたが、実際に映画を観るとなるほどと頷ける。イーストウッドはさすがにブレない。「死」に対する彼の視点が変化したのは『グラン・トリノ』だったが、この新作はしっかり『グラン・トリノ』につながっている。

あらためてレビューを書くつもりだが、とりあえずこの映画をじっくり味わうためには、アンソニー・サマーズの『大統領たちが恐れた男:FBI長官フーヴァーの秘密の生涯』に目を通しておいたほうがいい。いろいろ時間が飛ぶので、いくらか予備知識がないとついていけなくなると思う。

本書は映画の原作というわけではないが、脚本を書いたダスティン・ランス・ブラックは参考にしているはず。

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