小林政広 『日本の悲劇』 レビュー



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現代日本の無縁社会のなかで、老父はなぜ即身仏になる道を選ぶのか

小林政広監督が「年金不正受給事件」に触発されて作った『日本の悲劇』の主人公は、古い平屋に二人で暮らす老父とその息子だ。老父は自分が末期ガンで余命幾ばくもないことを知っている。妻子に去られた失業中の息子は、老父の年金に頼って生活している。

物語は、入院していた老父が息子に付き添われて家に戻ってくるところから始まる。その翌朝、老父は自室を封鎖して食事も拒み、残された息子は混乱に陥っていく。

この物語のもとになっているのは、111歳とされていた男性がミイラ化した遺体で見つかった事件だと思われるが、小林監督のアプローチは非常に興味深い。

映画には、3.11の悲劇や無縁社会、格差や自殺といった多様な要素が盛り込まれている。そうした現実に迫ろうとするのであれば、普通はこの事件の即身仏という要素は切り捨てたくなるところだろう。興味本位に見られかねないからだ。ところがこの映画では、即身仏が明確に意識されている。

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フアン・アントニオ・バヨナ 『インポッシブル』 レビュー

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イニシエーションなき時代における大人になるためのイニシエーションを描いた映画

スペインの新鋭フアン・アントニオ・バヨナ監督の『インポッシブル』は、多くの犠牲者を出した2004年のスマトラ島沖地震で被災し、苦難を乗り越えて生還を果たした家族の実話に基づいている。この映画には、大きく分けて三つの見所がある。

まず、大津波の現実が、凄まじい臨場感で非常にリアルに再現されている。私たちは、過去ではなく現在進行形の出来事として、この未曾有の災害を追体験することになる。

それから家族の絆だ。主人公は、ヘンリーとマリアのベネット夫妻とルーカス、トマス、サイモンという3人の息子たち。タイのリゾート地で休暇を過ごしていたこのイギリス人一家に大津波が襲いかかる。マリアと長男のルーカスは激しい濁流にのみ込まれ、他の3人と引き離されてしまう。過酷なサバイバルを余儀なくされるマリアとルーカス、そして必死に二人を探し続けるヘンリー。彼らの姿からは、家族の強い絆が浮かび上がってくる。

このふたつは、映像やドラマからダイレクトに伝わってくるので、あまり言葉を費やす必要もないだろう。だがこの映画にはもうひとつ、見逃せないテーマが盛り込まれている。それは、ルーカスにとってこの体験が、大人になるためのイニシエーション(通過儀礼)になっているということだ。

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ミシェル・ゴンドリー 『ムード・インディゴ~うたかたの日々~』 レビュー

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ヴィアンの『うたかたの日々』のイマジネーションと残酷さをめぐって

『ウィ・アンド・アイ』につづくミシェル・ゴンドリーの新作は、夭逝の作家ボリス・ヴィアンの悲痛な恋愛小説『うたかたの日々』の映画化だ。プレスのインタビューでゴンドリーは、原作を最初に読んだ時期について、「10代の頃だね。兄が最初に読んで、僕たち弟に薦めたんだ。間違いなく兄は『墓に唾をかけろ』とか、ボリス・ヴィアンがヴァーノン・サリバン名義で書いた、もっとエロティックな小説から読み始めたはずだね」と語っている。その昔、筆者もヴァーノン・サリバン名義のものから読み出したような気がする。

『ムード・インディゴ~うたかたの日々~』の舞台はパリで、時代背景は曖昧にされている。それなりの財産に恵まれ、働かなくても食べていける若者コランは、パーティで出会った美しいクロエと恋に落ちる。ふたりは、友人たちに祝福され盛大な結婚式を挙げるが、やがてクロエが、肺のなかに睡蓮が生長する奇妙な病におかされていることがわかる。その治療のために財産を使い果たしたコランは、働きだすが、彼らの世界は徐々に光と精気を失い、荒廃していく。

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『日本の悲劇』 レビュー & 小林政広監督インタビュー



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孤立する家族、無縁社会、格差、3.11の悲劇、そして即身仏

遅くなってしまいましたが、8月31日(土)より公開中の小林政広監督の新作『日本の悲劇』に関する告知です。

東京都内で111歳とされる男性のミイラ化した遺体が見つかり、家族が年金を不正受給していた事件は大きな注目を集めました。小林監督が『日本の悲劇』を作るうえでインスパイアされたのは、この年金不正受給事件です。

主人公は、古い平屋に二人で暮らす老父とその息子です。妻子に去られた失業中の息子は、老父の年金に頼って生活しています。そして、自分が余命幾ばくもないことを知った老父は、自室を閉鎖し、食事も水も摂らなくなります。

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『ローン・レンジャー』 劇場用パンフレット

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『パイレーツ』3部作とは異なるアプローチで挑んだジェリー×ゴア×ジョニーの会心作

告知がたいへん遅くなってしまいましたが、8月2日(金)より公開中の『ローン・レンジャー』の劇場用パンフレットに、上記のようなタイトルでレビューを書いています。

この『ローン・レンジャー』を、ジェリー・ブラッカイマーとゴア・ヴァービンスキーとジョニー・デップという『パイレーツ』シリーズのチームが作り上げた新たなエンターテイメント大作と受け止めることはもちろん間違いではないのですが、三者のバランスは明らかに『パイレーツ』とは違います。

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