『人生はビギナーズ』試写



試写室日記

本日は試写を1本。

『人生はビギナーズ』 マイク・ミルズ

マイク・ミルズの新作。彼のプライベートストーリーの映画化だが、これはほんとに素晴らしい。というより凄い。心を揺さぶられるだけではなく、サバービアや歴史に対する視点など実に奥が深い。

マイク・ミルズの父親は、45年連れ添った妻に先立たれたあと、75歳にして「同性愛者として残りの人生を楽しみたいんだ」とカミングアウトし、その言葉通りに人生を愉しみ、告白から5年後に他界したという。

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今週末公開オススメ映画リスト2011/10/27

週刊オススメ映画リスト

今回は『フェア・ゲーム』、『ウィンターズ・ボーン』、『ゴモラ』の3本です。

『フェア・ゲーム』 ダグ・リーマン

イラク戦争に前後する時期には、アメリカ政府やCIAのなかで信じがたいことがいろいろと起こっていた。フセイン政権は開戦前に裏ルートを通じて大量破壊兵器を保有していないことをアメリカに伝えようとしたが、アメリカはバグダードで会おうと、これを突っぱねた。

どうしても戦争がしたいアメリカが飛びついたのは、国外追放処分を受けたイラク人で、“カーブボール”という暗号名を持つ人物の極めて信憑性が薄い大量破壊兵器の情報だった。

バグダード陥落後、故郷で米軍に拘束された大統領補佐官アル・ティクリティは、イラクに大量破壊兵器などなく、とうの昔にすべて破棄されたと告げたが、兵器を探し出すというブッシュ政権の目標が変わることはなかった。

実はCIAは、このアル・ティクリティが告げた事実を開戦前につかんでいた。ところが、政府やCIAの上層部から圧力がかかる。『フェア・ゲーム』では、そこから起こった事件が描き出される。

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『プレイ』 『最強のふたり』 『デタッチメント』 『哀しき獣』 試写

試写室日記

22日から始まるTIFF(東京国際映画祭)の上映作品を4本。

『プレイ』 リューベン・オストルンド

スウェーデンのリューベン・オストルンド監督が実話にインスパイアされて作り上げた作品。タイトルの『プレイ』が示唆するものは、ミヒャエル・ハネケの『ファニーゲーム(Funny Games)』に呼応しているともいえるし、マチュー・カソヴィッツの『憎しみ』の世界をハネケ的な分析と表現で描いた作品のようでもある。

生理的に拒絶反応を起こすような表現も盛り込まれており、賛否両論あるかと思うが、筆者は引き込まれた。シェルビー・スティールが『黒い憂鬱』で提起しているような問題とも絡む要素がある。

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『家族の庭』 『サルトルとボーヴォワール 哲学と愛』試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『家族の庭』 マイク・リー

マイク・リーの作品は観ていることは観ているがあまり好きになれなかった。観ているうちに演劇と映画と一体どちらが大切なのだろうかという疑問がもたげてくる。彼の映画には、演劇が映画の上位にくる瞬間がある。だから「映画」に集中できないのだ。

『ヴェラ・ドレイク』もとてもしんどかったので、気が重かったのだが、この新作ははじめて心から酔うことができた。役者が素晴らしいことは最初からわかっているが、芝居でごりごり押してこない。空間のとらえ方とかカメラの動きに「映画」が感じられる。

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『ゴモラ』のすすめ+ロベルト・サヴィアーノ

News

イタリアの歴史と結びついた“カモッラ”の軌跡を頭に入れて

ただいま発売中の「CDジャーナル」2011年10月号の映画レビューのページで筆者が取り上げているのは、マッテオ・ガッローネ監督のイタリア映画『ゴモラ』(第61回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞、第21回ヨーロッパ映画賞5部門[作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞、撮影賞]受賞)。ナポリを拠点にする巨大な犯罪組織“カモッラ”の実態をリアルに描き出した作品だが、そのレビューを補足するようなことを書いておきたい。

この映画の原作は、作家/ジャーナリストのロベルト・サヴィアーノが自らカモッラに潜入して書き上げたノンフィクション・ノヴェル『死都ゴモラ』だ。映画はこの原作から5つのエピソードを選び出し、脚色し、絡み合わせていく。そのためカモッラのいまが浮き彫りにされるが、レビューではあえてその背景に注目している。

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