『悪魔を見た』『洋菓子店コアンドル』試写



試写室日記

試写を2本観た。

『悪魔を見た』 キム・ジウン

凄惨な場面の連続とまったく救いのない展開に嫌悪感をもよおし、拒否反応を起こす人も少なくないだろうが、そういう反応を恐れずに復讐を徹底的に突き詰めることによって見えてくるものがある。どうすれば無残に殺害された婚約者と同じ苦しみを犯人に味あわせることができるのか。

『オールド・ボーイ』のように時間を費やせばそれを確認できるかもしれないが、この映画の主人公スヒョン(イ・ビョンホン)にはそういう余裕はない。だから犯人ギョンチョル(チェ・ミンシク)との間にある時間を強引に引き延ばそうとする。だがその引き延ばされた時間のなかでスヒョンとギョンチョルは、『ダークナイト』のバットマンとジョーカーのような図式に陥り、主人公が犯人の力の源になってしまう。

『洋菓子店コアンドル』 深川栄洋

「名は体を表す」ではなく「ケーキは体を表す」というべきか。なつめ(蒼井優)が最初に作ってみせるクリームがゆるくべったりとしたケーキは、他人にべったりと依存して生きている、生きようとしている彼女自身を表している。そして作るケーキが変わると彼女も変わる。

ロバート・ケナー 『フード・インク』レビュー

Review

食品を通してわたしたちを支配する見えないシステムの脅威

ロバート・ケナー監督のドキュメンタリー『フード・インク』では、工業化された農業、多国籍企業による食品の支配、利益だけを追求する徹底した合理化が生み出す脱人間化といったテーマが掘り下げられていく。

この映画のプロデューサーで、中心的なガイド役を務めているのは、『ファストフードが世界を食いつくす』(楡井浩一訳/草思社/2001年)の著者でジャーナリストのエリック・シュローサーだ。ケナー監督はプレスに収められたインタビューで、この映画の企画について以下のように語っている。

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1月22日(土)よりシアター・イメージフォーラム他、全国順次ロードショー! (C)Participant Media

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クリス・マロイ 『180° SOUTH/ワンエイティ・サウス』レビュー

Review

1968年から2008年の間に自然と人間の関係はどう変化したか

クリス・マロイ監督のドキュメンタリー『180°SOUTH/ワンエイティ・サウス』は、「patagonia」と「THE NORTH FACE」という世界的なアウトドア・ブランドの創業者であるイヴォン・シュイナードとダグ・トンプキンスがかつて成し遂げた伝説の旅のエピソードから始まる。

60年代初頭から機能性に優れた登山用具を製造していたイヴォンは、1968年のある日、友人のダグからパタゴニアの山に登る旅に誘われた。彼らは、サーフボードや登山用具、旅を記録するための16ミリカメラなどをバンに積み込み、未舗装のパンアメリカン・ハイウェイを南下した。そして、パタゴニアの大自然、未開の地を踏破した経験は、彼らの人生に大きな影響を及ぼすことになった。

そんなプロローグに続いて、この映画の主人公であるジェフ・ジョンソンが登場する。8歳でロッククライミングとサーフィンに魅了され、アウトドアを生き甲斐にする彼は、10年前に伝説の旅の記録映像を見て衝撃を受け、それを追体験する機会をうかがっていた。そして伝説の旅から40年後、彼はメキシコからパタゴニアに向かうヨットにクルーとして乗り込む。

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1月22日(土)より渋谷・シネクイントにて【20日間限定】ロードショー!ほか全国順次公開!(C)2009 180°SOUTH LLC.

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今週末公開オススメ映画リスト2011/01/20



週刊オススメ映画リスト

今週は『完全なる報復』、『ソウル・キッチン』、『180°SOUTH/ワンエイティ・サウス』、『フード・インク』の4本です。

『完全なる報復』 F・ゲイリー・グレイ

突然自宅に押し入ってきた二人組の強盗犯に腹部を刺され、妻と娘を殺害されたエンジニアのクライド(ジェラルド・バトラー)。フィラデルフィアで飛び抜けた有罪率を誇る敏腕検事ニック(ジェイミー・フォックス)は、証拠が十分ではないと判断、主犯格の男に極刑を求めず司法取引を行い、数年の禁固刑の有罪を勝ち取る。

裁判からあっさり10年が経過し、犯人たちが残酷な方法であっさりと殺害され、クライドが拘束される。その後にいったいどんな物語が展開していくのか。このような事件から始まる物語は、“復讐”か“喪”へと向かう。アメリカ映画であれば圧倒的に復讐だが、この映画はさらにその先に踏み出す。

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『津軽百年食堂』『コリン LOVE OF THE DEAD』試写



試写室日記

試写を2本観た。

『津軽百年食堂』 大森一樹

弘前から見える岩木山がたまらない。筆者が登りたい山の上位にランクしている。というように書くと映画と関係がないことのようだが、大森監督の『わが心の銀河鉄道~宮沢賢治物語』に岩手山があったように、この映画に岩木山があると考えるべきだろう。

『コリン LOVE OF THE DEAD』 マーク・プライス

試写室で隣の席に荷物を置いていたのは中山治美さんだった。上映が始まるまで、キアロスタミやパナヒなどイラン人の監督のことをいろいろ話していた。

制作費わずか45ポンドで作られたというゾンビ映画。ホラーとして見せようとしている感じはしないし、ゾンビと化した若者のわずかに残る記憶や意識を描きつつも、ありきたりなドラマにはなってしまわない。細部にこだわったカメラワークや編集、そしてなによりもゾンビの生態を観察しているかのような距離が異質な空気を醸し出している。