キラン・アルワリアと『灼熱の魂』とカナダの多文化主義をめぐって

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「るつぼ」とは違う「モザイク」が生み出す文化と相対主義のはざまで

カナダは世界に先駆けて国の政策として多文化主義を導入した。その政策には二本の柱があった。一本は、ケベック州と残りのカナダがひとつの国家としてどのように存在すべきなのかという課題に答えるものだ。カナダの多文化主義の功罪をテーマにしたレジナルド・W・ビビーの『モザイクの狂気』では、以下のように記されている。

同委員会の勧告に基づいて、公式の政策声明が出された。カナダには二つの建国民族――フランス人とイギリス人――がいると宣言された。これ以後、カナダは二つの公用語――フランス語と英語――を持つことになる。カナダ人は一生いずれの言語で暮らしてもよい。一九六九年、この考えは確固不動のものになった。公用語制定法の通過に伴い、異集団間を支える主要な二つの礎石の一つ――二言語併用主義――が据えられた

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Shearwaterの新作『Animal Joy』が2月にリリース

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新天地Sub Popから新作を出すメイバーグはどこに向かうのか

シアウォーター(Shearwater)は、1999年にテキサス州オースティンで結成されたインディ・ロック・バンド。そのフロントマンであるジョナサン・メイバーグ(Jonathan Meiburg)の経歴はかなりかわっている。

大学を卒業したメイバーグは、目的地や研究対象がかなり自由に選べる“Watson Fellowship”というユニークな奨学金を得て、まず南米大陸南端に位置する諸島ティエラ・デル・フエゴに向かい、そこからフォークランド諸島を訪れた。アメリカ南西部を出たこともなかった彼は、地の果てで生きる人々、そのコミュニティと場所の繋がりに強い関心を持っていた。

そんな彼はフォークランド諸島でイギリス人の鳥類学者ロビン・ウッズに出会う。そのウッズがアシスタントを求めていたことから名乗りをあげ、鳥類の研究に踏み出していく。様々な鳥類が生息する諸島で、彼が特に惹かれたのが、かつてダーウィンも興味を覚えていたというStriated Caracara(別名:Johnny Rook)だった。そして帰国後、テキサス大学の大学院に進み、生物地理学を専攻した彼は、そのStriated Caracaraをテーマにした論文を発表した。

この経験は、シアウォーターのフロントマンとしての音楽活動とも深く結びついている。バンドの名前であるShearwaterはミズナギドリを意味する。彼らのアルバムのジャケットにはしばしば鳥が使われている。もちろん歌詞も、ナチュラリストの視点で、鳥を中心にした生き物、地の果ての島、自然、環境の変化、人間との関係などが表現されている。

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『Suno Suno』 by Rez Abbasi’s Invocation

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カッワーリーの一体性と精神性によってジャズに新たな血と知を注ぎ込む

筆者のお気に入りのギタリスト、レズ・アバシ(Rez Abbasi)のニューアルバムが素晴らしい。“Invocation”というグループ/ユニット名をアルバムで名乗るのはこれがはじめてだが、2009年にリリースした『Things To Come』と基本的にメンバーは同じであり、実質的には『Things To Come』がInvocationのファーストで、こちらがセカンドということになる。

メンバー構成は、ギターと全曲の作曲がリーダーのレズ・アバシ、サックスがルドレシュ・マハンサッパ(Rudresh Mahanthappa)、ピアノがヴィジェイ・アイヤー(この三人については何度も取り上げているので説明はいらないだろう)、ベースがヨハネス・ワインミュラー(Johannes Weidenmueller)、ドラムスがダン・ワイス(Dan Weiss)。

『Things To Come』の時には、このクインテットに、インド系カナダ人(現在はニューヨーク在住)のヴォーカリストで、アバシ夫人でもあるキラン・アルワリア(Kiran Ahluwalia)が4曲に、チェロのマイク・ブロックが2曲に加わっていた。今回は完全にクインテットで勝負している。

『SUNO SUNO』

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『In The Mist』 by Harold Budd

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デレク・ジャーマン、サイ・トゥオンブリー、死者との交感

ハロルド・バッドは、『Avalon Sutra』でひとたび引退宣言をしたものの、それを撤回し、音楽活動をつづけている。『In The Mist』は、この1936年生まれのコンポーザー/ピアニストの年齢にも関わる境地を感じさせる作品になっている。

全体は、“The Whispers”、“The Gun Fighters”、“Shadows”の三部で構成されている。一部は静謐なピアノ主体、二部ではパーカッシブな要素が入り(といっても基本的なトーンは変わらない)、いくぶん動的になり、三部は静謐なストリング・クァルテットで締めくくられる。

『In The Mist』

harold budd – in the mist (album preview) by experimedia

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『羅針盤は死者の手に』の監督、音楽、衣装、プロデューサーに取材

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普段は楽天的だが、実は緻密な映画作りをしていることを確認

TIFFのコンペ作品『羅針盤は死者の手に』の監督アルトゥーロ・ポンス、音楽のエドガル・バロソ、衣装のアンナ・リベラ、プロデューサーのオスカル・ラミレス・ゴンサレスにインタビューした。紅一点のリベラがスペイン出身で、他の3人はメキシコ出身。ラテン的というか、とにかくノリノリで、一人に質問していても、みんなが次々に答え、通訳さんのメモが整理がつかないくらい長くなる。そして訳しだした通訳さんに声援を送る。

但し、映画の中身に関するコメントはどれも実に興味深かった。衣装から画像の彩度まで、細部から全体の流れまで、驚くほど緻密な作りをしていることがわかった。音楽のバロソが、この映画を10回以上観ているが、いまだに発見があると語っていた。ちなみにこの人、監督と昔からの友だちで、日本ではおそらくほとんど知られていないと思うが、拠点にしているアメリカでは作曲家/演奏者として認知され、いろいろ賞も受賞している。

“Sketches of Briefness” for Ensemble by Edgar Barroso. Performed by ICE (International Contemporary Ensemble). from Edgar Barroso on Vimeo.

“Engrama” for String Quartet by Edgar Barroso / The Diotima Quartet from Edgar Barroso on Vimeo.

ENGRAMA by edgarbarroso_2

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