『エッセンシャル・キリング』試写

試写室日記

本日は試写を1本。

『エッセンシャル・キリング』 イエジー・スコリモフスキ

『アンナと過ごした4日間』で見事な復活を遂げたポーランドの巨匠スコリモフスキの新作。主演はヴィンセント・ギャロ。ヴェネチア国際映画祭で、審査員特別賞と主演男優賞を獲得している。

作品の構造は、ジャームッシュの『ダウン・バイ・ロウ』を想起させる。『ダウン・バイ・ロウ』では、一部のニューオーリンズから二部の刑務所、そして三部の脱獄後の空間へと、情報や記号が消し去られていき、主人公たちは時代も場所も定かではないどこでもない場所へと彷徨いだす。

スコリモフスキはそれを9・11以後の世界でやってしまう。アフガニスタンから始まり、捕虜として収容所に連行され、逃亡の先にはどこでもない場所が広がる。

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今週末公開オススメ映画リスト2011/02/24

週刊オススメ映画リスト

今回は『アンチクライスト』、『英国王のスピーチ』、『シリアスマン』、『世界のどこにでもある、場所』、『悪魔を見た』の5本です。

『アンチクライスト』 ラース・フォン・トリアー

この映画では、「人間」と「自然」(あるいは「動物」)が対置されている。人間は「歴史」に囚われている。映画の題名に関わるキリスト教も、魔女狩りも、セラピストの論理も歴史のなかにある。動物は歴史の外にあって、「瞬間」を生きる。私たちは、ある種の狂気を通して、動物性への帰郷を果たす必要があるのかもしれない。詳しいことは、2月19日発売の「CDジャーナル」2011年3月号掲載の『アンチクライスト』レビューをお読みください。

『英国王のスピーチ』 トム・フーパー

幼い頃から吃音というコンプレックスを抱え、人前に出ることを恐れてきた男が、様々な困難を乗り越えて国民に愛される王になっていく物語は感動的だ。しかし、この物語に深みを生み出しているのは、スピーチ矯正の専門家ライオネルの存在だろう。

このオーストラリア人は一見、とんでもなく型破りに見える。患者が王太子であっても往診を拒み、診察室に呼び寄せる。その診察では王太子と自分の平等を宣言し、王太子を愛称で呼び、喫煙を禁じ、プライベートな事柄を遠慮もなく根掘り葉掘り聞いてくる。

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『アンチクライスト』『トスカーナの贋作』試写

試写室日記

試写を2本観た。

『アンチクライスト』 ラース・フォン・トリアー

試写室で河原晶子さんにお会いする。河原さんは2度目だそうだ。

すごい映画だった。「死」→「喪」→「森」→「動物と人間」→「pain」→「nature」→「genocide」と、筆者が強い関心を持っている要素が、すさまじい映像の力で次々と押し寄せてきて、心の準備もできないままに心拍数が上がり、最後は異様な興奮状態に陥っていた。こういう体験ができる映画はめったにない。本当に病んでないとこういう映画は撮れないだろう。

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