『行き止まりの世界に生まれて』|ニューズウィーク日本版のコラム「映画の境界線」記事

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荒廃するラストベルト、悲惨な過去を乗り越えようとする若者の葛藤、『行き止まりの世界に生まれて』

ニューズウィーク日本版のコラム「映画の境界線」の2020年9月3日更新記事で、アメリカの新鋭ビン・リューの長編デビュー作となるドキュメンタリー『行き止まりの世界に生まれて』(18)を取り上げました。

産業が衰退したラストベルトにある街ロックフォードを舞台に、もがきながら成長する3人の若者を描いています。一見すると、子供の頃からそれぞれに父親や継父に暴力を振るわれてきた3人が、スケートボードにのめり込み、そのなかのひとり、ビンがビデオグラファーになり、仲間を撮るうちにドキュメンタリーに発展し、本作が誕生したかのように見えますが、実は作品の出発点は別のところにあり、非常に複雑なプロセスを経て完成にこぎ着け、結果としてドキュメンタリーの枠を超えたドキュメンタリーになっています。その隠れた出発点やプロセスがわかると、作品の印象も変わるのではないかと思います。

コラムをお読みになりたい方は以下のリンクからどうぞ。

荒廃するラストベルト、悲惨な過去を乗り越えようとする若者の葛藤、『行き止まりの世界に生まれて』

2020年9月4日(金)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

風間志織 『チョコリエッタ』 レビュー



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知世子とチョコリエッタをめぐる冒険

筆者ホームページ“crisscross”の方に、風間志織監督の『チョコリエッタ』(14)のレビューをアップしました。すでにレビュー01として短めのレビューをアップしていますが、今回は劇場用パンフレットに寄稿した少し長めのレビューです。

レビューをお読みになりたい方は以下のリンクからどうぞ。

風間志織 『チョコリエッタ』 レビュー02

パヴェウ・パヴリコフスキ 『イーダ』 レビュー

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“アンナ”が“イーダ”になるためのイニシエーション

パヴェウ・パヴリコフスキの新作『イーダ』は、1957年にワルシャワで生まれ、14歳の時に共産主義のポーランドを離れたこの監督が、初めて祖国で作り上げた作品だ。

物語の背景は1962年のポーランド。戦争孤児として修道院で育てられ、修道女になる準備をしていた18歳のアンナは、院長から叔母のヴァンダが存命していることを知らされる。検察官でありながら、酒に溺れる乱れた生活を送るヴァンダは、唯一の親類を訪ねてきたアンナに、彼女がユダヤ人で、本名はイーダ・レベンシュタインであることを打ち明ける。そして二人はそれが宿命であったかのように、歴史の闇に分け入り、家族の死の真相に迫っていく。

陰影に富むモノクロ、スタンダード・サイズの映像、徹底的に削ぎ落とされた台詞や構成、ホロコーストや共産主義をめぐる歴史の闇、アンジェイ・ワイダを筆頭とする“ポーランド派”やポーランド・ジャズの黄金時代へのオマージュ。この映画は、これまでのパヴリコフスキ作品とはまったく違うように見えるが、実はしっかりと繋がっている。

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ジェフ・ニコルズ 『MUD‐マッド‐』 レビュー

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サザン・ゴシック、少年のイニシエーション、そして打ちひしがれた男たちの再生

監督第2作の『テイク・シェルター』(11)で日本でも認知されるようになったジェフ・ニコルズは、デビュー当時のあるインタビューで大学時代にコンテンポラリーな南部作家に傾倒していたことに触れ、ラリー・ブラウン、ハリー・クルーズ、コーマック・マッカーシーの名前を挙げていた。

新作『MUD‐マッド‐』(12)は、南部で培われた“サザン・ゴシック”というナラティブ(物語)への愛着が凝縮されたような映画だが、興味深いのはこの作品に続くように、デヴィッド・ゴードン・グリーンや監督もこなすジェームズ・フランコが、それぞれラリー・ブラウンとコーマック・マッカーシーの小説を映画化した『ジョー(原題)』(13)や『チャイルド・オブ・ゴッド(原題)』(13)を発表していることだ。サザン・ゴシックは隠れたトレンドになっているのかもしれない。

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フアン・アントニオ・バヨナ 『インポッシブル』 レビュー

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イニシエーションなき時代における大人になるためのイニシエーションを描いた映画

スペインの新鋭フアン・アントニオ・バヨナ監督の『インポッシブル』は、多くの犠牲者を出した2004年のスマトラ島沖地震で被災し、苦難を乗り越えて生還を果たした家族の実話に基づいている。この映画には、大きく分けて三つの見所がある。

まず、大津波の現実が、凄まじい臨場感で非常にリアルに再現されている。私たちは、過去ではなく現在進行形の出来事として、この未曾有の災害を追体験することになる。

それから家族の絆だ。主人公は、ヘンリーとマリアのベネット夫妻とルーカス、トマス、サイモンという3人の息子たち。タイのリゾート地で休暇を過ごしていたこのイギリス人一家に大津波が襲いかかる。マリアと長男のルーカスは激しい濁流にのみ込まれ、他の3人と引き離されてしまう。過酷なサバイバルを余儀なくされるマリアとルーカス、そして必死に二人を探し続けるヘンリー。彼らの姿からは、家族の強い絆が浮かび上がってくる。

このふたつは、映像やドラマからダイレクトに伝わってくるので、あまり言葉を費やす必要もないだろう。だがこの映画にはもうひとつ、見逃せないテーマが盛り込まれている。それは、ルーカスにとってこの体験が、大人になるためのイニシエーション(通過儀礼)になっているということだ。

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