『Suno Suno』 by Rez Abbasi’s Invocation

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カッワーリーの一体性と精神性によってジャズに新たな血と知を注ぎ込む

筆者のお気に入りのギタリスト、レズ・アバシ(Rez Abbasi)のニューアルバムが素晴らしい。“Invocation”というグループ/ユニット名をアルバムで名乗るのはこれがはじめてだが、2009年にリリースした『Things To Come』と基本的にメンバーは同じであり、実質的には『Things To Come』がInvocationのファーストで、こちらがセカンドということになる。

メンバー構成は、ギターと全曲の作曲がリーダーのレズ・アバシ、サックスがルドレシュ・マハンサッパ(Rudresh Mahanthappa)、ピアノがヴィジェイ・アイヤー(この三人については何度も取り上げているので説明はいらないだろう)、ベースがヨハネス・ワインミュラー(Johannes Weidenmueller)、ドラムスがダン・ワイス(Dan Weiss)。

『Things To Come』の時には、このクインテットに、インド系カナダ人(現在はニューヨーク在住)のヴォーカリストで、アバシ夫人でもあるキラン・アルワリア(Kiran Ahluwalia)が4曲に、チェロのマイク・ブロックが2曲に加わっていた。今回は完全にクインテットで勝負している。

『SUNO SUNO』

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『Those Who Didn’t Run』 by Colin Stetson

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息を呑む超絶技巧に磨きをかけ、トランスの世界を切り拓く

以前はコリン・ステットソンについて書くのに、トム・ウェイツやArcade FireやBon Iverのアルバムやツアーに参加しているサックス奏者のような前置きをしなければならなかったが、このブログでも取り上げたアルバム『New History Warfare Vol. 2: Judges』(11)がVol.1以上に大きな評判になって、どうやらその必要もなくなったようだ。

vimeoやYouTubeに演奏の映像が出たことも大きかったのだろう。なにも知らずにステットソンのアルバムを聴いたら、エフェクターかテープかオーバーダブかなにかで音を作っていると思ってしまうはずだから。ちなみにステットソンの超絶技巧を知らずにこのページに来てしまった方は、ひとまず『New History Warfare Vol. 2: Judges』←こちらに貼ったvimeoの演奏をご覧になってから戻ってきてください。

"Those Who Didn't Run" by Colin Stetson

で、『New History Warfare Vol. 2: Judges』につづくEP『Those Who Didn’t Run』が出た。これがまたいい、明らかに進化していて。

Those Who Didn’t Run E.P. – COLIN STETSON by Constellation Records

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『Samdhi』 by Rudresh Mahanthappa

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エレクトリック・ミュージックとの境界に“マジックアワー”を探る

インド系アメリカ人のサックス奏者Rudresh Mahanthappaの多面的な活動については、「Rudresh Mahanthappaが切り拓くハイブリッドな世界」に書いたが、その最後のところで少しだけ触れたニューアルバム『Samdhi』がリリースされている。このプロジェクトは、2008年にMahanthappaがグッゲンハイム奨学金を獲得したことがきっかけで生まれ、これまでとは編成が異なるバンドが結成され、このアルバムに結実した。

メンバーと楽器の構成は、Mahanthappa(アルトサックス、ラップトップ)、David Gilmore(エレクトリック・ギター)、Rich Brown(エレクトリック・ベース)、Damion Reid(ドラムス)、”Anand” Anatha Krishnan(ムリダンガム、カンジーラ)。↓今回は自身の音楽のルーツとして、よりファンキーでエレクトリックな音楽、グローバー・ワシントンJr.やデヴィッド・サンボーンやブレッカー・ブラザーズの名前を挙げているところが、意外でもあり新鮮でもある。

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Rudresh Mahanthappaが切り拓くハイブリッドな世界

トピックス

文化的、伝統的、地理的な境界を揺さぶり、広がるネットワーク

読むのを楽しみにしていながらそのままになっていたall about jazz.comのルドレシュ・マハンサッパ(Rudresh Mahanthappa)のインタビューを原稿書きの合間にやっとチェック。このサイトのインタビューは基本的にボリュームがあるが、特にマハンサッパの場合は質問もたくさんあったはず。この数年、実に多様なコラボレーションを繰り広げているからだ。

それは彼がインド系であることと無関係ではない。マイナーなレーベルからアルバム・デビューした頃には、インドというレッテルを貼られ、ラヴィ・シャンカールをゲストに…みたいなアドバイスをされることもあったらしい。もちろん、彼が求めていたのはそんな音楽ではなかった。

39歳のマハンサッパと75歳のバンキー・グリーンというまったく世代の異なるアルトサックス奏者がコラボレーションを繰り広げる『Apex』(2010)は、その当時、彼がどんな音楽を求めていたのかを示唆する。

バンキー・グリーンのことは、ノース・テキサスからバークリーに出てきて音楽を学んでいるときに、サックスの講師ジョー・ヴィオラから教えられた。グリーンのアルバム『Places We’ve Never Been』を聴いてぶっ飛んだ彼は、デモテープを送り、助言を求めた。それが関係の始まりだ。

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『New History Warfare Vol.2: Judges』 by Colin Stetson

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リード楽器と身体を極限まで駆使する圧巻のひとりオーケストラ

コリン・ステットソン(Colin Stetson)というリード奏者の名前は知らなくても、彼が生み出す音に触れている人は少なくないはずだ。たとえば、トム・ウェイツ(Tom Waits)の『Alice』や『Blood Money』、『Orphans』とか、Arcade Fireの『Neon Bible』や『The Suburbs』、TV On the Radioの『Return to Cookie Mountain』や『Dear Science』、Yeasayerの『Odd Blood』、そしてBon Iverのニューアルバム『Bon Iver, Bon Iver』(11)にも。

ステットソンがどんな音を出しているのか、とりあえず彼のサックスがフィーチャーされたArcade Fireのショート・フィルムの予告編でも見てみますか。監督はスパイク・ジョーンズです。

でもステットソンが本領を発揮するのはやはりソロでしょう。でかくて重いバス・サックスと一体化した超絶技巧をご覧あれ。

Colin Stetson | Awake on Foreign Shores & Judges | A Take Away Show from La Blogotheque on Vimeo.

テープとかループを使っているわけではない。循環呼吸、キーでリズムを生み出す指使い、ヴォーカリゼーション、過剰なブロウや残響、楽器の特性と身体を駆使してユニークな音楽が生み出される。ミニマル・ミュージックのようでもあり、アルバート・アイラーのようでもある。

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