真利子哲也 『NINIFUNI』 レビュー



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不可視のものがどこでもない場所から私たちを見返している

実際の事件に着想を得た真利子哲也監督の中編『NINIFUNI』では、対極の立場や環境にあるような人物が交差する。その空間をどう解釈するかで、作品の印象も変わってくる。

便宜的に田中と名づけられた若者は、もうひとりの仲間と強盗を働く。その後、奪った車でひとり国道を彷徨う。やがて日が落ちると誰もいない浜辺に車を止め、窓に目貼りをし、練炭に火をつける。

その翌朝、ももいろクローバーが、プロモーションビデオの撮影のために浜辺に到着する。スタッフが浜辺を舞台に変え、彼女たちの曲が流れ出す。そして、田中が横たわる車からも、遠くに彼女たちが歌い踊る姿が見える。

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ダグ・リーマン 『フェア・ゲーム』 レビュー

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イラクの大量破壊兵器をめぐるブッシュ政権・CIA上層部の陰謀

実話に基づく『フェア・ゲーム』の主人公は、幼い双子の母親でもあるCIA諜報員のヴァレリー、そして彼女の夫で元外交官のジョーだ。物語は9・11以後、イラク侵攻に前後する時期を背景にしている。

中東地域を担当するヴァレリーは、在米の親族を通してイラク人科学者から情報を引き出し、大量破壊兵器が存在しないことを突き止める。元ニジェール大使だったジョーも、国務省の要請でニジェールに赴き、イラクのウラン購入の情報が信憑性に欠けることを確認する。

ところがブッシュ政権は情報を無視して開戦に踏み切る。危機感を覚えたジョーは新聞で自身の調査に基づく事実を明らかにするが、その直後にヴァレリーの正体がリークされ、夫婦は政治的な圧力と誹謗中傷にさらされていく。

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マッテオ・ガッローネ 『ゴモラ』 レビュー

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カモッラの実態に迫ることは、イタリアとはなにかを問うことでもある

2008年にカンヌ国際映画祭でグランプリを獲得したマッテオ・ガッローネ監督の『ゴモラ』では、イタリア南部ナポリを拠点に絶大な権力を振るう犯罪組織“カモッラ”の世界が描き出される。彼らの支配は麻薬取引や武器密輸からファッションブランドの縫製や産業廃棄物の処理事業にまで及び、組織に従わない者は冷酷に排除されていく。

映画の原作である『死都ゴモラ』の著者ロベルト・サヴィアーノは、自らカモッラに潜入し、その実態を明らかにしてみせた。それだけにこの映画にはドキュメンタリーのようにリアルな空気が漂っているが、魅力はそれだけではない。

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デブラ・グラニック 『ウィンターズ・ボーン』 レビュー

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ホモソーシャルな連帯とミソジニー、そしてもうひとつのスピリット

アメリカのなかでアパラチアやミズーリ州オザーク地方に暮らす人々は、“ヒルビリー”と呼ばれ蔑まれてきた。注目の新鋭女性監督デブラ・グラニックがミズーリ州でオールロケを行い、現地住民も含むキャストで撮り上げたこの『ウィンターズ・ボーン』には、彼らの独自の世界が実にリアルに描き出されている。

心を病んだ母親に代わって幼い弟と妹を引き受け、一家の大黒柱になることを余儀なくされた17歳の娘リーに、さらなる難題がふりかかる。とうの昔に家を出た麻薬密売人の父親が逮捕されたあげく、土地と家を保釈金の担保にして行方をくらましてしまったのだ。彼女は家族を守るためになんとか父親を探し出そうとするが…。

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ゲラ・バブルアニ 『ロシアン・ルーレット』 レビュー

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アウトサイダー的俳優陣が放つ存在感

ロシアン・ルーレットが描かれた作品として多くの人が真っ先に思い出すのは、おそらくベトナム戦争を題材にしたマイケル・チミノ監督の『ディア・ハンター』だろう。この映画では、反政府組織の捕虜になった主人公たちがロシアン・ルーレットを強要される。そして彼らのひとり、ニックは精神を病み、この死のゲームにとり憑かれていく。

他にも、たとえば北野武監督の『ソナチネ』(93)では、沖縄の抗争に巻き込まれ、浜辺の廃屋に身を隠している主人公のヤクザが、舎弟とロシアン・ルーレットをはじめる(舎弟は青ざめるが、後で弾が入ってなかったことがわかる)。

エミール・クストリッツァ監督の『アリゾナ・ドリーム』(92)では、自殺願望を持つ娘グレースが、主人公アクセルにロシアン・ルーレットを持ちかける。ダニー・ボイル監督の『ザ・ビーチ』(99)では、タイの孤島にある秘密の楽園のリーダーが、他人に情報を漏らした主人公リチャードに、1発だけ弾を込めた銃を向ける。

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