ベン・アフレック 『ザ・タウン』レビュー



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土地そのものとの関係が希薄な幻想の共同体と確かな感触を持つ土を媒介にした絆

ベン・アフレックの監督第2作、チャック・ホーガンのミステリー『強盗こそ、われらが宿命<さだめ>』を映画化した『ザ・タウン』でまず興味をそそられるのは、物語の舞台となるマサチューセッツ州チャールズタウンだ。

ボストンの北東部に位置し、住民たちが“タウン”と呼ぶこの地域は、他のどの地域よりも多くの銀行強盗、現金輸送車強盗を生み出してきた。もちろんそれには理由がある(ことになっている)。かつてチャールズタウンには凶悪犯罪者用の最重要警備刑務所が存在し、その刑務所が移転したあとも、犯罪者の共同体が残った。

アフレックがそんな背景に関心を持っていたことは、プレスに収められら彼のコメントから察せられる。

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ワン・チュエンアン 『再会の食卓』レビュー



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二作つづけて二人の夫を持つ妻の物語を映画にする監督はなかなかいない

ベルリン国際映画祭で金熊賞(グランプリ)を受賞した前作『トゥヤーの結婚』と、同映画祭で銀熊賞(最優秀脚本賞)を受賞した新作『再会の食卓』を並べてみると、ワン・チュエンアンがかなりユニークな感性とこだわりを持った監督であることがわかる。

『トゥヤーの結婚』の舞台は、砂漠化が進む中国の内モンゴル自治区。遊牧を営むヒロインのトゥヤーと家族は窮地に立たされている。夫が生活に必要な水を確保するために井戸を掘っているときにダイナマイト事故に遭い、下半身不随になってしまったからだ。

重労働で身体を壊しかけたトゥヤーは、夫の勧めに従い、家族が生きていくために離婚し、新しい夫を探すことにする。彼女が出した結婚の条件は、元夫の面倒も見ること。そのため彼女は、再婚によって二人の夫を持つことになる。

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園子温 『冷たい熱帯魚』レビュー



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演じることが不可能な極限まで追い詰められた男がむきだしにするもの

家族の不和を抱えつつ、小さな熱帯魚店を営む主人公・社本が、同業者で人の良さそうな村田と知り合ったことで、想像を絶する破滅的な世界に引きずり込まれていく。

園子温監督の『冷たい熱帯魚』は、『紀子の食卓』や『愛のむきだし』で突き詰められてきた家族の世界にひとつの区切りをつける作品といえる。

筆者が『紀子の食卓』公開時に園監督にインタビューしたとき、彼は“家族”についてこのように語っていた(園子温インタビュー)。

「日本では、伝統的な家族の在り方というものが、古くからあるように見せかけているけれども、本当はないと思うんですよ。それがあるのなら、いつから崩壊したのか逆に問いただしたい。そんな曖昧さのなかで、幸せな家族の在り方があると信じ込み、家族を形成していくことの危うさを表現したかった」

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シャロン・マグアイア 『ブローン・アパート』レビュー

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テロで家族を奪われたヒロインはいかにして喪失を受け入れるのか

『ブローン・アパート』のヒロインは、警察の爆弾処理班の夫と4歳の息子とロンドンのイーストエンドに建つ公団に暮らす“若い母親”(ミシェル・ウィリアムズ)だ(この映画では彼女の名前は明確にされない)。夫の危険な仕事が大きなストレスになっていた彼女は、パブで出会ったジャスパー(ユアン・マクレガー)と関係を持ってしまう。彼は公団の向かいに建つジョージアン様式の建物に暮らす新聞記者だった。

そして事件が起こる。夫と息子をサッカー観戦に送り出した彼女は、路上で偶然再会したジャスパーと情事に耽っていた。そのときテレビのサッカー中継が爆音にかき消される。スタジアムで自爆テロが起こったのだ。このテロで息子と夫を亡くした彼女は、罪悪感と喪失感に苛まれる。ジャスパーと夫の上司だったテレンスが、そんな彼女に手をさしのべようとするが、やがてテロ事件をめぐる秘密が明らかになる。

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1月29日(土)より銀座シネパトス他にて全国順次ロードショー (C) 2008 CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION/INCENDIARY LTD. ALL RIGHTS RESERVED

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ロバート・ケナー 『フード・インク』レビュー

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食品を通してわたしたちを支配する見えないシステムの脅威

ロバート・ケナー監督のドキュメンタリー『フード・インク』では、工業化された農業、多国籍企業による食品の支配、利益だけを追求する徹底した合理化が生み出す脱人間化といったテーマが掘り下げられていく。

この映画のプロデューサーで、中心的なガイド役を務めているのは、『ファストフードが世界を食いつくす』(楡井浩一訳/草思社/2001年)の著者でジャーナリストのエリック・シュローサーだ。ケナー監督はプレスに収められたインタビューで、この映画の企画について以下のように語っている。

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1月22日(土)よりシアター・イメージフォーラム他、全国順次ロードショー! (C)Participant Media

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