『朱花の月』 『大鹿村騒動記』 『一枚のハガキ』試写



試写室日記

本日は邦画の試写を3本。

『朱花の月』 河瀨直美

『殯の森』(07)、『七夜待』(08)、『玄牝-げんぴん-』(10)の河瀨直美監督の新作。タイトルの「朱花」は「はねづ」と読む。万葉集に登場する朱色の花だという。

畝傍山、香具山、耳成山からなる“大和三山”が出てくるというだけで個人的に興味をそそられていたが、91分のなかに多様な要素が盛り込まれていることもあり、映画を観た時点では全体像がはっきりしていなかった。

続きを読む

『エッセンシャル・キリング』試写

試写室日記

本日は試写を1本。

『エッセンシャル・キリング』 イエジー・スコリモフスキ

『アンナと過ごした4日間』で見事な復活を遂げたポーランドの巨匠スコリモフスキの新作。主演はヴィンセント・ギャロ。ヴェネチア国際映画祭で、審査員特別賞と主演男優賞を獲得している。

作品の構造は、ジャームッシュの『ダウン・バイ・ロウ』を想起させる。『ダウン・バイ・ロウ』では、一部のニューオーリンズから二部の刑務所、そして三部の脱獄後の空間へと、情報や記号が消し去られていき、主人公たちは時代も場所も定かではないどこでもない場所へと彷徨いだす。

スコリモフスキはそれを9・11以後の世界でやってしまう。アフガニスタンから始まり、捕虜として収容所に連行され、逃亡の先にはどこでもない場所が広がる。

続きを読む

今週末公開オススメ映画リスト2011/05/05

週刊オススメ映画リスト

今回は『4月の涙』と『昼間から呑む』の2本です。

『4月の涙』 アク・ロウヒミエス

クラウス・ハロ監督の『ヤコブへの手紙』といい、アク・ロウヒミエス監督のこの『4月の涙』といい、フィンランド映画は侮れない。「同じ国民が敵味方に分かれて戦ったフィンランド内戦」とか「敵同士の准士官と女性兵士の許されざる愛」といった表現から想像されるドラマとは異なる次元から歴史が読み直されている。月刊「宝島」2011年6月号の連載コラム「試写室の咳払い」でこの作品を取り上げています。

『4月の涙』 5月7日(土)より、シネマート新宿、銀座シネパトスほか全国順次公開

続きを読む

Jana Winderen 『Energy Field』 レビュー

Review

音の世界に生きることへの想像力を喚起するサウンドスケープ

ノルウェー出身のJana Winderenは、90年代前半から主にサウンド・インスタレーションの分野で活動しているサウンド・アーティスト、プロデューサー、キュレーター、ディレクターだ。

彼女は4年に渡ってグリーンランド、アイスランド、ノルウェー、バレンツ海を踏査し、氷河のクレバスの深部やフィヨルド、外洋でフィールド・レコーディングを行ってきた。Touchレーベルからリリースされたアルバム『Energy Field』は、その音源をもとに作られた作品で、<Aquaculture 17:51>、<Isolation / Measurement 11:41>、<Sense of Latent Power 20:19>の3曲が収められている。

energyf

Energy Field

そんなフィールド・レコーディングなかでも特に興味深いのが、ハイドロフォンを使って採取される海中の音だろう。彼女はできるだけ深い場所で音を採取しようと試み、最近ではケーブルの長さが90メートルにもなっているという。

続きを読む

Julia Kent 『Green and Grey』 レビュー

Review

ニューヨーク在住のチェリストが紡ぎ出す自然と都市と人間のサウンドスケープ

カナダ出身で、ニューヨークを拠点に活動するチェリスト、ジュリア・ケント(Julia Kent)は、インディアナ大学でクラシックとチェロを学んだが、クラシックの音楽家になりたいと思っていたわけではなかった(ちなみに彼女の姉妹のジリアン・ケントは、クラシックのバイオリニストとして活躍している)。

そんな彼女は、学校を出てからしばらくジャーナリズムの世界で仕事をしたあと、3本のチェロを中心にしたオルタナティブなバンドRasputinaのオリジナル・メンバーになり、チェリストとしてのキャリアをスタートさせる。そして、90年代末にバンドを離れた後は、Antony and the Johnsonsのメンバーとなる一方で、Burnt Sugar the Arkestra Chamber、Leona Naess、Angela McCluskeyなど様々なミュージシャンたちとセッションを繰り広げていく。

delay

Delay (2007)

ジュリアが2007年にリリースした最初のソロ・アルバム『Delay』は、そんな活動と無関係ではない。彼女はAntonyやその他のグループとのツアーで訪れた各国の“空港”にインスパイアされて、このアルバムを作った。

続きを読む