ラース・フォン・トリアー 『メランコリア』 レビュー

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人間の在り方を原点から問い直す――鬼才トリアーの世界

ラース・フォン・トリアー監督の前作『アンチクライスト』は、うつ病を患ったフォン・トリアーがリハビリとして台本を書き、撮影した作品だった。新作の『メランコリア』も、「うつ病」の意味もある言葉をタイトルにしているように、彼のうつ病の体験と深く結びついている。

この映画は二部構成で、ジャスティンとクレアという姉妹の世界が対置されている。ジャスティンは心の病ゆえにこれまで姉のクレアに迷惑をかけてきたと思われる。そんな彼女は結婚を節目に新たな人生を歩み出そうとするが、パーティーの最中にうつ状態に陥り、夫も仕事も失ってしまう。

しかし、世界の終わりが現実味を帯びていく第二部では、二人の立場が逆転する。失うもののないジャスティンは落ち着きを取り戻し、家族がいるクレアは逆に取り乱し、自分を見失いかける。

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ダニエル・ネットハイム 『ハンター』 レビュー

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広大な自然の中で
真のハンターとなった男の物語

ダニエル・ネットハイム監督の『ハンター』の主人公マーティン・デイビッドは、レッドリーフ社から請け負った仕事を遂行するためにタスマニア島を訪れる。単独行動を好む彼は、奥地へと分け入り、黙々と作業を進めていく。彼がベースキャンプにしている民家には、母親のルーシーと、サスとバイクという子供たちが暮らしている。奥地とベースキャンプを往復する彼は、この母子と心を通わせていくうちに、自分の仕事に対して疑問を覚えるようになる。

しかし、マーティンを変えていくのは、決して純粋な心や家族の温もりといったものだけではない。この映画でまず注目しなければならないのは、余計な説明を削ぎ落とした表現だろう。

たとえば、マーティンという主人公は何者なのか。これまでどんな人生を歩んできたのか。どんな仕事をこなしてきたのか。なぜ人と関わることを避けようとするのか。あるいは、なぜバイク少年は言葉をまったく発しないのか。喋れないのか、喋らないのか。父親のジャラが行方不明になってからそういう状態になったのか、それとも以前からそうだったのか。この映画はそれをあえて説明せず、私たちの想像に委ねようとする。

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『ファミリー・ツリー』劇場用パンフレット



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ジョージ・クルーニー主演の話題作!5月18日(金)ロードショー

本年度アカデミー賞で脚色賞に輝いたアレクサンダー・ペイン監督の最新作『ファミリー・ツリー』の劇場用パンフレットに、「連綿とつづく生の営み」というタイトルで、これまでのペイン作品(『ハイスクール白書 優等生ギャルに木をつけろ!』『アバウト・シュミット』『サイドウェイ』)を踏まえて新作の魅力を探るコラムを書いています。

ペイン作品といえば、人生の危機に直面した主人公の姿がすぐに思い浮かんできますが、筆者は、もうひとつ、まったく違った共通点があるところに興味を覚えていました。そして、『ファミリー・ペイン』では、これまであまり目立たなかったその共通点が、より明確になっています。コラムでは、そのあたりから作品の魅力に迫っています。

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『クーリエ 過去を運ぶ男』 『ジェーン・エア』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『クーリエ 過去を運ぶ男』 ハニ・アブ・アサド

自爆テロを通してパレスチナ人の若者の生と死を見つめた『パラダイス・ナウ』で注目を集めたハニ・アブ・アサド監督の新作。凄腕のクーリエ(運び屋)が、誰も顔を知らず、生死すら定かではない謎の人物イーヴル・シヴルに鞄を届ける仕事を強要される。猶予はわずか60時間。

タフガイのクーリエにジェフリー・ディーン・モーガン、クーリエと行動をともにするアナにジョシー・ホー、FBI捜査官にティル・シュヴァイガー、殺し屋夫婦にリリ・テイラーとミゲル・フェラー、鍵を握る男マックスウェルにミッキー・ロークという顔ぶれ。

アブ・アサド監督のオリジナルな企画ではなく、オファーを受けて作った作品で、くせのあるキャラクターとか、ニューオーリンズやラスヴェガスが醸し出す雰囲気は嫌いではないが、気になるのはどこからこういうストーリーを思いついたのかということだ。

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今週末公開オススメ映画リスト2012/04/26

週刊オススメ映画リスト

今回は、『ル・アーヴルの靴みがき』『孤島の王』『ジョイフル♪ノイズ』の3本です。

『ル・アーヴルの靴みがき』 アキ・カウリスマキ

『街のあかり』(06)以来、5年ぶりの新作。『ル・アーブルの靴みがき』試写室日記の方にいろいろ感想を書きましたので、まずはそちらをお読みください。

現在発売中の「CDジャーナル」2012年5月号に、「カウリスマキの神学」というタイトルで本作品のレビューを書いておりますので、ぜひお読みください。

試写室日記では、この新作でカウリスマキが新たな次元に踏み出していて、そこには昨年末に公開されたレイ・マイェフスキの『ブリューゲルの動く絵』(11)に通じる視点があるといったことを書きました。いったいどう繋がるのか首を傾げた方もいらっしゃるかもしれませんが、はったりをかましたわけではありません。「CDジャーナル」のレビューでは、『ブリューゲルの動く絵』も引用し、繋がりを明らかにしております。

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