『オン・ザ・ロード』 『コン・ティキ』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『オン・ザ・ロード』 ウォルター・サレス

『セントラル・ステーション』『ビハインド・ザ・サン』『モーターサイクル・ダイアリーズ』のウォルター・サレス監督が、ジャック・ケルアックの『オン・ザ・ロード』を映画化した。

その導入部はひとつのポイントになる。映画は、サルの父親の死のエピソードから始まる。『オン・ザ・ロード』の1957年刊行版は妻との離婚から始まる。父親の死から始まるのは、ケルアック自身が手を加える前のオリジナル版(『スクロール版オン・ザ・ロード』として刊行されている)だ。

サレスはオリジナル版のほうにだいぶインスパイアされているように見える。それが父親へのこだわりに表れている。

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クロード・ガニオン 『カラカラ』 レビュー

Review

禅の世界に通じる喪失と再生の物語

新しい世紀に入って再び日本で映画を作るようになったクロード・ガニオン監督にとって、『カラカラ』(12)は、『リバイバル・ブルース』(03)、『KAMATAKI‐窯焚‐』(05)につづく新作になる。この三作品を対比してみると、新作では前の作品に見られたモチーフがかたちを変えて引き継がれ、掘り下げられていることがわかる。

『リバイバル・ブルース』に登場する健は、かつて親友の洋介とバンドという夢を追いかけたが、堅実な人生を歩む決断をしたことで夢は終わりを告げた。この映画ではそんな健が、末期癌の洋介の最期を看取ることになる。『カラカラ』の主人公ピエールは、二年前に親友を喪った。かつて二人にはソーラーハウスという大きな夢があったが、ピエールはそれを捨て、安定や社会的地位を選んだ。

『KAMATAKI‐窯焚‐』に登場する日系カナダ人の若者ケンは、父親を喪った哀しみから立ち直れず、自殺をはかった。そんな彼は陶芸家である叔父の窯元を訪ね、信楽焼の陶器に言葉では表現しがたいなにかを感じたことがきっかけで、再生を果たしていく。『カラカラ』にも異文化との出会いがある。喪失と死の不安に苛まれるピエールは、沖縄県立博物館で目にした人間国宝・平良敏子が織った芭蕉布になぜか強く惹きつけられていく。

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トマス・ヴィンターベア 『偽りなき者』 レビュー

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コミュニティが不可視の集団へと変わるとき

トマス・ヴィンターベア監督の新作『偽りなき者』の出発点は、〝ドグマ95〟の第一弾として世界的な注目を集めた彼の『セレブレーション』(98)まで遡る。

映画が公開された後で、この監督と同じ通りに住む著名な精神科医が、映画の内容に関心を持ち、直接訪ねてきた。そして、研究事例の資料を差し出し、それを映画にすべきだと提案した。ヴィンターベアは資料を受け取ったものの、すぐに目を通すことはなかった。

『セレブレーション』では、自殺した双子の妹とともに幼い頃に父親から性的虐待を受けていた主人公が、父親の還暦を祝う席で苦痛に満ちた過去を暴露する。精神科医が注目するのもよくわかる題材ではあるが、コミューンで育ったヴィンターベアが最も関心を持っていたのは、おそらく集団の心理だった。だから資料を放置したのだろう。

しかしそれから10年後、離婚も経験したヴィンターベアは精神科医が必要になり、彼に連絡をとった。もちろん礼儀として資料にも目を通した。そして衝撃を受けた。

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『ハッシュパピー バスタブ島の少女』 映画.com レビュー+サントラの話

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海上他界信仰を通して描き出される荒々しく深いイニシエーション

「映画.com」の本日(4月9日)更新の映画評枠で、上記のようなタイトルで、4月20日公開のベン・ザイトリン監督『ハッシュパピー バスタブ島の少女』(12)のレビューを書いています。その告知のついでに、レビューのテキストを補完するようなことを書いておきます。

特に音楽についてです。監督のベン・ザイトリンは、ミュージシャン/プロデューサーのダン・ローマーとともに音楽も手がけています。彼の映画では、音楽が重要な位置を占めています。というのも、彼は高校や大学時代には、バンドで活動したりミュージカルを創作するというように、まずなによりも音楽に関心を持っていました。ちなみに演奏する楽器は主にギターで、ピアノもこなすようです。

そんなザイトリンにとっては映像と音楽は対等なものであって、どちらも共通のイマジネーションから生み出され、深く結びついています。筆者は『ハッシュパピー バスタブ島の少女』試写室日記で、この映画の音楽について、「マイケル・ナイマンとバラネスク・カルテットがレクイエムを奏でているようなテイストもある」と書きました。

以下のYouTubeは、ザイトリンとローマーも参加したサントラの1曲<Once There Was a Hushpuppy>の演奏風景を収めたものです。筆者はすぐにナイマンを連想しますが、それは間違いではなかったようです。

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今週末公開オススメ映画リスト2013/04/04

週刊オススメ映画リスト

今回は『海と大陸』『君と歩く世界』『ホーリー・モーターズ』『アントン・コービン 伝説のロック・フォトグラファーの光と影』の4本です。

『海と大陸』 エマヌエーレ・クリアレーゼ

2011年のヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞に輝いたイタリアの俊英エマヌエーレ・クリアレーゼ監督の作品です(前作の『新世界』は2006年に同じ映画祭で銀獅子賞を受賞しています)。

同じイタリアのアンドレア・セグレ監督の『ある海辺の詩人―小さなヴェニスで―』レビューのなかで、筆者はセグレ監督が移民問題を題材にしたドキュメンタリーを監督していると書きました。『Come un uomo sulla terra / Like a Man on Earth』(08)では、リビアから地中海を渡ってイタリアにたどり着いた難民たちが苦難の道程を自ら語り、『Mare chiuso / Closed Sea』(12)では、イタリアとリビアの間で結ばれたアフリカ難民をめぐる協定の実態が明らかにされています。

シチリアと北アフリカの中間に位置するペラージェ諸島を舞台にした本作でも、アフリカ難民をめぐる問題が取り上げられています。それだけでなく、マッテオ・ガッローネ監督の『ゴモラ』レビューで書いたようなイタリアの南北問題と結びつけられているところも見逃せません。外部と内部の問題を交差させ、中央ではなく周縁から社会を見る視点が、作品を深いものにしています。

月刊「宝島」2013年5月号(3月25日発売)の連載コラムでレビューを書いていますので、ぜひお読みください。

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