Richard Skelton 『Landings』 レビュー

Review

場所から生まれ、場所を取り込み、そして場所に帰る――儀式としての音楽

イギリス・ランカシャーの自然とともに生きるアーティスト、リチャード・スケルトン(Richard Skelton)は、自身のレーベル“Sustain Release”を立ち上げ、Clouwbeck、 Heidika、 Carousell、A Broken Consortなどの様々な名義で作品を発表してきた。リチャード・スケルトンの名前を使ったのは、『Marking Time』(2008)が最初で、それにつづくのが『Landings』(2009)だ。

スケルトンが、弓弾きの弦楽器(主にヴァイオリン)、ギター、マンドリン、ピアノ、アコーディオン、パーカッションなどから紡ぎ出すレイヤー・サウンドはすぐにわかる。そこには彼でなければ切り拓けないサウンドスケープがある。音の断片は生々しく、ノイジーでもあり、身体というものを意識させる。ところがそうした断片で構築される空間は、美しく静謐で、幽玄とすらいえる。

Richard Skelton – Landings by _type

そんなスケルトンのサウンドスケープは、彼の精神や世界観と深く結びついている。

続きを読む

『’Round Midnight (Homage to Thelonious Monk)』 by Emanuele Arciuli



Listning

20の<Round Midnight>と、ひとつの<Round Midnight>

ジャズ史のなかで異彩を放つ唯一無二のピアニスト、セロニアス・モンク。これまで様々なミュージシャンたちが、モンクのトリビュート作品を発表してきたが、Emanuele Arciuliの『’Round Midnight (Homage to Thelonious Monk)』は、そのどれとも似ていない。まったく異色の作品といえる。

Emanuele Arciuliは、イタリアのクラシックのピアニストだ。トリビュート作品では当然、モンクの生み出した様々な楽曲が取り上げられるはずだが、このアルバムでは、モンクの代表曲にしてスタンダード・ナンバーになっている<Round Midnight>だけだ。

round midnight

'Round Midnight (Homage to Thelonious Monk)

Arciuliは、これまで一緒に仕事をしてきたアメリカとヨーロッパの作曲家たちに協力を求め、それぞれの作曲家が<Round Midnight>の同じテーマの変奏を試みた。

続きを読む

Jana Winderen 『Energy Field』 レビュー

Review

音の世界に生きることへの想像力を喚起するサウンドスケープ

ノルウェー出身のJana Winderenは、90年代前半から主にサウンド・インスタレーションの分野で活動しているサウンド・アーティスト、プロデューサー、キュレーター、ディレクターだ。

彼女は4年に渡ってグリーンランド、アイスランド、ノルウェー、バレンツ海を踏査し、氷河のクレバスの深部やフィヨルド、外洋でフィールド・レコーディングを行ってきた。Touchレーベルからリリースされたアルバム『Energy Field』は、その音源をもとに作られた作品で、<Aquaculture 17:51>、<Isolation / Measurement 11:41>、<Sense of Latent Power 20:19>の3曲が収められている。

energyf

Energy Field

そんなフィールド・レコーディングなかでも特に興味深いのが、ハイドロフォンを使って採取される海中の音だろう。彼女はできるだけ深い場所で音を採取しようと試み、最近ではケーブルの長さが90メートルにもなっているという。

続きを読む

『テザ 慟哭の大地』試写

試写室日記

本日は試写を1本。

『テザ 慟哭の大地』 ハイレ・ゲリマ

エチオピア出身でアメリカ在住のハイレ・ゲリマ監督が、祖国の歴史やディアスポラ体験を、現実と記憶や悪夢を自在に交錯させながら描いた力作。

作品そのものについてはまたあらためて書くつもりだが、伝統的な音楽にエレクトロニックな要素を取り入れたり、60~70年代のジャズを意識したスタイルを盛り込んだりと、誰が音楽を手掛けているのか興味をおぼえつつエンド・クレジットを見ていたら、いまをときめくジャズ・ピアニストのヴィジェイ・アイヤーとJorga Mesfin(“ethio jazz”を掲げるバンドWudasseに参加していたサックス奏者で、“The Kind Ones: Degagochu”というアルバムを出している)だった。

作品とともにアイヤーとMesfinの音楽も評価されているようで、カルタゴやドバイの映画祭では音楽賞を受賞している。

続きを読む

Julia Kent 『Green and Grey』 レビュー

Review

ニューヨーク在住のチェリストが紡ぎ出す自然と都市と人間のサウンドスケープ

カナダ出身で、ニューヨークを拠点に活動するチェリスト、ジュリア・ケント(Julia Kent)は、インディアナ大学でクラシックとチェロを学んだが、クラシックの音楽家になりたいと思っていたわけではなかった(ちなみに彼女の姉妹のジリアン・ケントは、クラシックのバイオリニストとして活躍している)。

そんな彼女は、学校を出てからしばらくジャーナリズムの世界で仕事をしたあと、3本のチェロを中心にしたオルタナティブなバンドRasputinaのオリジナル・メンバーになり、チェリストとしてのキャリアをスタートさせる。そして、90年代末にバンドを離れた後は、Antony and the Johnsonsのメンバーとなる一方で、Burnt Sugar the Arkestra Chamber、Leona Naess、Angela McCluskeyなど様々なミュージシャンたちとセッションを繰り広げていく。

delay

Delay (2007)

ジュリアが2007年にリリースした最初のソロ・アルバム『Delay』は、そんな活動と無関係ではない。彼女はAntonyやその他のグループとのツアーで訪れた各国の“空港”にインスパイアされて、このアルバムを作った。

続きを読む