『Eternity of Dimming』 by Frontier Ruckus

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彼らはサバービアから生まれる音楽の可能性を確実に広げている

筆者が“サバービア”絡みで強い関心と愛着を持っているミシガン出身のバンド、Frontier Ruckusのニューアルバム『Eternity of Dimming』が出た。20曲入りのダブルアルバム。これは、アルバム日記としてさらりと紹介するよりも、少し時間をかけてレビューとしてアップしようと最初は思ったのだが、気持ちがそれを許さない。

仕事の原稿を書きながら、流していると心が揺さぶられてしまい、仕事が手につかない。これはもうひとまずアルバム日記として感じたことを吐き出してしまうしかない。

前作『Deadmalls & Nightfalls』アルバム日記で書いたように、このバンドが生み出す音楽の背景にはサバービアがある。前作では、彼らの地元ともいえるWaterford Townshipにあって、2009年に閉鎖されたショッピングモール、Summit Place Mallの写真がジャケットにも使われ、音楽のキーイメージにもなっていた。それは彼が知る固有のものであると同時に、全国に広がるデッドモールの象徴にもなっていた。

『Eternity of Dimming』

『Eternity of Dimming』

新作にも同じことがいえる。バンドのフロントマンであるMatthew Miliaの歌には、店の固有名詞が散りばめられている。それは、大手デパートチェーンのJ.C.ペニーやKOHL’S、ピザ・ショップのLittle Caesars、日本でもお馴染みのSubways、朝食メニューのレストラン・チェーンのIHOP、建築資材や家庭用品を扱うチェーンのHome Depot、コンビニやボーリング場、クルマの特約店などだ。それは彼らの地元であるデトロイト郊外の風景であると同時に、アメリカ全土に広がるサバービアの風景でもある。

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デブラ・グラニック 『ウィンターズ・ボーン』 レビュー

Review

ホモソーシャルな連帯とミソジニー、そしてもうひとつのスピリット

アメリカのなかでアパラチアやミズーリ州オザーク地方に暮らす人々は、“ヒルビリー”と呼ばれ蔑まれてきた。注目の新鋭女性監督デブラ・グラニックがミズーリ州でオールロケを行い、現地住民も含むキャストで撮り上げたこの『ウィンターズ・ボーン』には、彼らの独自の世界が実にリアルに描き出されている。

心を病んだ母親に代わって幼い弟と妹を引き受け、一家の大黒柱になることを余儀なくされた17歳の娘リーに、さらなる難題がふりかかる。とうの昔に家を出た麻薬密売人の父親が逮捕されたあげく、土地と家を保釈金の担保にして行方をくらましてしまったのだ。彼女は家族を守るためになんとか父親を探し出そうとするが…。

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今週末公開オススメ映画リスト2011/10/27

週刊オススメ映画リスト

今回は『フェア・ゲーム』、『ウィンターズ・ボーン』、『ゴモラ』の3本です。

『フェア・ゲーム』 ダグ・リーマン

イラク戦争に前後する時期には、アメリカ政府やCIAのなかで信じがたいことがいろいろと起こっていた。フセイン政権は開戦前に裏ルートを通じて大量破壊兵器を保有していないことをアメリカに伝えようとしたが、アメリカはバグダードで会おうと、これを突っぱねた。

どうしても戦争がしたいアメリカが飛びついたのは、国外追放処分を受けたイラク人で、“カーブボール”という暗号名を持つ人物の極めて信憑性が薄い大量破壊兵器の情報だった。

バグダード陥落後、故郷で米軍に拘束された大統領補佐官アル・ティクリティは、イラクに大量破壊兵器などなく、とうの昔にすべて破棄されたと告げたが、兵器を探し出すというブッシュ政権の目標が変わることはなかった。

実はCIAは、このアル・ティクリティが告げた事実を開戦前につかんでいた。ところが、政府やCIAの上層部から圧力がかかる。『フェア・ゲーム』では、そこから起こった事件が描き出される。

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『Afterquake』 by Abigail Washburn & The Shanghai Restoration Project

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中国・四川大地震の悲劇はどのように記憶されていくのか

ハリケーン・カトリーナの悲劇を題材にしたTed Hearneの『Katrina Ballads』のことを書いているときに、このアルバムのことを思い出した。アメリカ人のフォーク・シンガー、Abigail Washburnと主にエレクトロニカを手がける中国系のプロデューサー、Dave Liangのコラボレーションである『Afterquake』は、2008年の四川大地震の悲劇から生まれた。

ふたつの作品のアプローチはまったく違う。Hearneは『Katrina Ballads』で、ブッシュ大統領やバーバラ・ブッシュ、カニエ・ウェスト、生存者などが発した発言を取り込んだ。その言葉は異なるシンガーによって様々なスタイルで歌われる。

Abigail WashburnとDave Liangは、震災の一年後に被災地を訪れ、そこに生きる子供たちの様々な声を広い集め、伝統的な音楽、復興の響き、子供たちの歌やコーラス、フォークとエレクトロニクスが融合したサウンドスケープを作り上げた。

『Afterquake』 (2009)

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『Deadmalls & Nightfalls』 by Frontier Ruckus

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閉鎖された巨大モールの記憶、サバービアの風景としての廃墟

茨城の取手を拠点に、「郊外」をテーマにした作品を撮る佐々木友輔監督の『新景カサネガフチ』(10)では、ショッピングセンターや東急ストア取手店の閉店・閉鎖のエピソード、その記憶を通して、人と風景の関係が掘り下げられていた。

ミシガン出身のバンド、Frontier Ruckusの音楽の背景にも“サバービア”がある。彼らが昨年リリースした『Deadmalls & Nightfalls』のジャケットには、ミシガンのWaterford Townshipにあったショッピングモール、Summit Place Mallの写真が使われている。

『Deadmalls & Nightfalls』 (2010)

Summit Place Mallは1963年に誕生し(最初はPontiac Mallと呼ばれていた)、2009年にその長い歴史に幕をおろした。↓これらの映像には、巨大モールの栄枯盛衰を見ることができるだろう。

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