デブラ・グラニック 『ウィンターズ・ボーン』 レビュー

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ホモソーシャルな連帯とミソジニー、そしてもうひとつのスピリット

アメリカのなかでアパラチアやミズーリ州オザーク地方に暮らす人々は、“ヒルビリー”と呼ばれ蔑まれてきた。注目の新鋭女性監督デブラ・グラニックがミズーリ州でオールロケを行い、現地住民も含むキャストで撮り上げたこの『ウィンターズ・ボーン』には、彼らの独自の世界が実にリアルに描き出されている。

心を病んだ母親に代わって幼い弟と妹を引き受け、一家の大黒柱になることを余儀なくされた17歳の娘リーに、さらなる難題がふりかかる。とうの昔に家を出た麻薬密売人の父親が逮捕されたあげく、土地と家を保釈金の担保にして行方をくらましてしまったのだ。彼女は家族を守るためになんとか父親を探し出そうとするが…。

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河瀨直美 『朱花の月』 レビュー



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万葉の精神と響き合い、純粋な「瞬間」に目覚めていくヒロイン

河瀨直美監督の『朱花の月』の舞台は、大和三山や藤原宮跡があり、古代の記憶が宿る飛鳥地方だ。この映画には、その記憶の断片ともいえる万葉集の歌が挿入される。

大和三山を男女に見立てた中大兄皇子の歌は、こんな意味になる。「香具山は畝傍山が愛おしい/奪われたくないから耳成山と争う/遠い昔もそうだった/そして今の世でも争うのだ」

この映画のヒロインは、万葉集に出てくる朱花(はねづ)の色に魅せられた染色家の加夜子。これまで地元PR紙の編集者・哲也と長年一緒に暮らしてきた彼女は、かつての同級生で木工作家の拓未と再会し、いつしか愛し合うようになっていた。

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今週末公開オススメ映画リスト2011/10/27

週刊オススメ映画リスト

今回は『フェア・ゲーム』、『ウィンターズ・ボーン』、『ゴモラ』の3本です。

『フェア・ゲーム』 ダグ・リーマン

イラク戦争に前後する時期には、アメリカ政府やCIAのなかで信じがたいことがいろいろと起こっていた。フセイン政権は開戦前に裏ルートを通じて大量破壊兵器を保有していないことをアメリカに伝えようとしたが、アメリカはバグダードで会おうと、これを突っぱねた。

どうしても戦争がしたいアメリカが飛びついたのは、国外追放処分を受けたイラク人で、“カーブボール”という暗号名を持つ人物の極めて信憑性が薄い大量破壊兵器の情報だった。

バグダード陥落後、故郷で米軍に拘束された大統領補佐官アル・ティクリティは、イラクに大量破壊兵器などなく、とうの昔にすべて破棄されたと告げたが、兵器を探し出すというブッシュ政権の目標が変わることはなかった。

実はCIAは、このアル・ティクリティが告げた事実を開戦前につかんでいた。ところが、政府やCIAの上層部から圧力がかかる。『フェア・ゲーム』では、そこから起こった事件が描き出される。

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スサンネ・ビア 『未来を生きる君たちへ』 レビュー



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負の連鎖から生まれる復讐と自然、人間中心主義からの脱却

スサンネ・ビアの『ある愛の風景』『アフター・ウェディング』では、デンマークの日常とアフガニスタンの紛争地帯やインドのスラムが結びつけられていた。新作の『未来を生きる君たちへ』でも、デンマークの田舎町に暮らし、アフリカの難民キャンプに派遣される医師アントンを通して、異なる世界が結びつけられる。だが、ふたつの世界の位置づけには大きな違いがある。

前者ではそんな構成が、豊かで安定した社会と貧しく混沌とした社会を象徴し、物語の前提となっていた。しかしこの新作では、最初からそんな図式が崩れている。

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『コンテイジョン』 『指輪をはめたい』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『コンテイジョン』 スティーヴン・ソダーバーグ

パンデミックを題材にしたソダーバーグの新作。マリオン・コティヤール、マット・デイモン、ローレンス・フィッシュバーン、ジュード・ロウ、グウィネス・パルトロウ、ケイト・ウィンスレットという豪華キャスト。

個人的には、この作品に限らず、パンデミックとかウイルスという題材と映画の相性はあまりよくないと思っている。見えないものをなんとか可視化し、動きとして表現しなければ緊張が持続しないからだ。だからこの映画も、見えないものから微妙に視点をずらしながら、可視化していく。

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