ジェフ・ニコルズ 『MUD‐マッド‐』 レビュー

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サザン・ゴシック、少年のイニシエーション、そして打ちひしがれた男たちの再生

監督第2作の『テイク・シェルター』(11)で日本でも認知されるようになったジェフ・ニコルズは、デビュー当時のあるインタビューで大学時代にコンテンポラリーな南部作家に傾倒していたことに触れ、ラリー・ブラウン、ハリー・クルーズ、コーマック・マッカーシーの名前を挙げていた。

新作『MUD‐マッド‐』(12)は、南部で培われた“サザン・ゴシック”というナラティブ(物語)への愛着が凝縮されたような映画だが、興味深いのはこの作品に続くように、デヴィッド・ゴードン・グリーンや監督もこなすジェームズ・フランコが、それぞれラリー・ブラウンとコーマック・マッカーシーの小説を映画化した『ジョー(原題)』(13)や『チャイルド・オブ・ゴッド(原題)』(13)を発表していることだ。サザン・ゴシックは隠れたトレンドになっているのかもしれない。

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ダニー・ボイル 『トランス』 レビュー

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記憶の迷宮でせめぎ合う男女の欲望

ダニー・ボイル監督の『トランス』は、白昼のオークション会場からゴヤの「魔女たちの飛翔」が強奪されるところから始まる。40億円の名画を奪ったのは、密かにギャングと手を組んだ競売人のサイモンだったが、なぜか途中で計画とは違う行動に出た彼は、ギャングのリーダーであるフランクに殴られ、絵画の隠し場所の記憶を失ってしまう。

そこで催眠療法士のエリザベスが雇われ、記憶を取り戻そうとする。しかし、そのエリザベスには秘密があり、療法を受けるサイモンの頭のなかでは、主人公たちを翻弄するように記憶が迷宮と化していく。

自分を取り巻く世界を思い通りにしたいという欲望は誰もが持っているものだが、それにとらわれすぎれば深刻なトラブルに巻き込まれる。ダニー・ボイルはこれまで様々な設定でそんなドラマを描き出してきた。

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『ブランカニエベス』 劇場用パンフレット

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映像と音楽と題材が三位一体となった貴種流離譚

2013年12月7日(土)より新宿武蔵野館ほかで全国公開になるパブロ・ベルヘル監督のスペイン映画『ブランカニエベス』(12)の劇場用パンフレットに、上記のようなタイトルでコラムを書いています。世界各国で注目を集め、数々の賞に輝いているモノクロ&サイレント映画です。以下、プレスから一部を引用。

第37回トロント国際映画祭でのプレミア上映を皮切りに、数多の国際映画祭に出品され、瞬く間に世界の注目をさらった本作。“スペイン版アカデミー賞”と呼ばれる第27回ゴヤ賞では最優秀作品賞をはじめとする18部門にノミネートされ、他の追随を許さぬ圧倒的な強さで最多10部門を制覇。第60回サン・セバスチャン国際映画祭では審査員特別賞・最優秀女優賞のW受賞を果たしたほか、第85回アカデミー賞においては外国語映画賞のスペイン代表作に選出されるなど、その熱狂ぶりは、世界の主要映画賞50部門以上受賞という確固たる栄冠に裏付けられている。

新しいモノクロ&サイレント映画といえば、ミシェル・アザナヴィシウス監督の『アーティスト』(11)が思い出されます。どちらの映画も、サイレントを単純に現代に甦らせただけの作品ではありませんし、それぞれに独自のアプローチが際立ち、新鮮な魅力を放っています。

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『ザ・イースト』 『ダラス・バイヤーズクラブ』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ザ・イースト』 ザル・バトマングリ

主演から脚本・製作までこなす才女ブリット・マーリングと新鋭ザル・バトマングリ監督のコラボレーション第2弾。いまハリウッドで注目を集める彼らが選んだ題材はエコテロリズム。

マーリングが演じるのは、テロ活動からクライアント企業を守る調査会社に採用された元FBIエージェントのジェーン。サラと名前を変え、正体不明の環境テロリスト集団<イースト>に潜入した彼女は、大企業の不正や被害者の実情を知るうちに、彼らの信念に共感を抱くようになるが…。

キャストは、<イースト>のリーダー、ベンジーにアレクサンダー・スカルスガルド、<イースト>の重要メンバー、イジーにエレン・ペイジ、調査会社の代表シャロンにパトリシア・クラークソンという顔ぶれ。

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『オンリー・ゴッド』のニコラス・ウィンディング・レフンにインタビューした

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主人公のなかのマスキュリニティとフェミニニティをめぐって

2014年1月25日(土)より新宿バルト9ほかで全国ロードショーになる新作『オンリー・ゴッド』(13)のプロモーションで来日したデンマーク出身のニコラス・ウィンディング・レフン監督にインタビューしました。

タイのバンコクを舞台にした『オンリー・ゴッド』は、様々な賞に輝いた『ドライブ』につづいてライアン・ゴズリングとレフンが再びタッグを組んだ作品ですが、『ドライブ』の続編のようなものを想像していると、頭を抱えることになると思います。

『ドライブ』にはジェイムズ・サリスの同名小説という原作があり、脚色の段階でかなり手が加えられてレフンの世界に塗り替えられてはいましたが、彼の世界がストレートに表現されていたわけではありません。

これに対して『オンリー・ゴッド』は、ストレートに表現した作品で、その視点や表現など、『ドライブ』以前の『ブロンソン』や『ヴァルハラ・ライジング』に通じるものがあります。ゴズリング扮するジュリアンが最終的に到達する境地は、『ヴァルハラ・ライジング』のワン・アイのそれと似た空気を漂わせています。

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