今週末公開オススメ映画リスト2012/05/10

週刊オススメ映画リスト

今回は『ロボット』『ムサン日記~白い犬』『さあ帰ろう、ベダルをこいで』『キラー・エリート』(順不同)の4本です。

『ロボット』 シャンカール

ド派手で奇想天外で突っ込みどころが満載のVFXシーンも確かにインパクトがあるが、個人的にいちばん強烈だったのは“スーパー・スター” ラジニカーントのバイタリティだ。

90年代末に、ラジニ主演の『ヤジャマン 踊るマハラジャ2』(93)や『アルナーチャラム 踊るスーパースター』(97)などを取り上げた「インド映画のなかのタミル語映画」という原稿を書いたことを思い出した。

そのなかで、1949年生まれのラジニはもう決して若くはなく、地元では彼の後継者は誰かという話題も出るが、それでも彼の地位はなかなか揺るぎそうにないという現状を出発点に、根強い人気の背景についていろいろ書いている。

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キラン・アルワリアと『灼熱の魂』とカナダの多文化主義をめぐって

トピックス

「るつぼ」とは違う「モザイク」が生み出す文化と相対主義のはざまで

カナダは世界に先駆けて国の政策として多文化主義を導入した。その政策には二本の柱があった。一本は、ケベック州と残りのカナダがひとつの国家としてどのように存在すべきなのかという課題に答えるものだ。カナダの多文化主義の功罪をテーマにしたレジナルド・W・ビビーの『モザイクの狂気』では、以下のように記されている。

同委員会の勧告に基づいて、公式の政策声明が出された。カナダには二つの建国民族――フランス人とイギリス人――がいると宣言された。これ以後、カナダは二つの公用語――フランス語と英語――を持つことになる。カナダ人は一生いずれの言語で暮らしてもよい。一九六九年、この考えは確固不動のものになった。公用語制定法の通過に伴い、異集団間を支える主要な二つの礎石の一つ――二言語併用主義――が据えられた

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『Suno Suno』 by Rez Abbasi’s Invocation

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カッワーリーの一体性と精神性によってジャズに新たな血と知を注ぎ込む

筆者のお気に入りのギタリスト、レズ・アバシ(Rez Abbasi)のニューアルバムが素晴らしい。“Invocation”というグループ/ユニット名をアルバムで名乗るのはこれがはじめてだが、2009年にリリースした『Things To Come』と基本的にメンバーは同じであり、実質的には『Things To Come』がInvocationのファーストで、こちらがセカンドということになる。

メンバー構成は、ギターと全曲の作曲がリーダーのレズ・アバシ、サックスがルドレシュ・マハンサッパ(Rudresh Mahanthappa)、ピアノがヴィジェイ・アイヤー(この三人については何度も取り上げているので説明はいらないだろう)、ベースがヨハネス・ワインミュラー(Johannes Weidenmueller)、ドラムスがダン・ワイス(Dan Weiss)。

『Things To Come』の時には、このクインテットに、インド系カナダ人(現在はニューヨーク在住)のヴォーカリストで、アバシ夫人でもあるキラン・アルワリア(Kiran Ahluwalia)が4曲に、チェロのマイク・ブロックが2曲に加わっていた。今回は完全にクインテットで勝負している。

『SUNO SUNO』

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『Samdhi』 by Rudresh Mahanthappa

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エレクトリック・ミュージックとの境界に“マジックアワー”を探る

インド系アメリカ人のサックス奏者Rudresh Mahanthappaの多面的な活動については、「Rudresh Mahanthappaが切り拓くハイブリッドな世界」に書いたが、その最後のところで少しだけ触れたニューアルバム『Samdhi』がリリースされている。このプロジェクトは、2008年にMahanthappaがグッゲンハイム奨学金を獲得したことがきっかけで生まれ、これまでとは編成が異なるバンドが結成され、このアルバムに結実した。

メンバーと楽器の構成は、Mahanthappa(アルトサックス、ラップトップ)、David Gilmore(エレクトリック・ギター)、Rich Brown(エレクトリック・ベース)、Damion Reid(ドラムス)、”Anand” Anatha Krishnan(ムリダンガム、カンジーラ)。↓今回は自身の音楽のルーツとして、よりファンキーでエレクトリックな音楽、グローバー・ワシントンJr.やデヴィッド・サンボーンやブレッカー・ブラザーズの名前を挙げているところが、意外でもあり新鮮でもある。

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Rudresh Mahanthappaが切り拓くハイブリッドな世界

トピックス

文化的、伝統的、地理的な境界を揺さぶり、広がるネットワーク

読むのを楽しみにしていながらそのままになっていたall about jazz.comのルドレシュ・マハンサッパ(Rudresh Mahanthappa)のインタビューを原稿書きの合間にやっとチェック。このサイトのインタビューは基本的にボリュームがあるが、特にマハンサッパの場合は質問もたくさんあったはず。この数年、実に多様なコラボレーションを繰り広げているからだ。

それは彼がインド系であることと無関係ではない。マイナーなレーベルからアルバム・デビューした頃には、インドというレッテルを貼られ、ラヴィ・シャンカールをゲストに…みたいなアドバイスをされることもあったらしい。もちろん、彼が求めていたのはそんな音楽ではなかった。

39歳のマハンサッパと75歳のバンキー・グリーンというまったく世代の異なるアルトサックス奏者がコラボレーションを繰り広げる『Apex』(2010)は、その当時、彼がどんな音楽を求めていたのかを示唆する。

バンキー・グリーンのことは、ノース・テキサスからバークリーに出てきて音楽を学んでいるときに、サックスの講師ジョー・ヴィオラから教えられた。グリーンのアルバム『Places We’ve Never Been』を聴いてぶっ飛んだ彼は、デモテープを送り、助言を求めた。それが関係の始まりだ。

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