『スーパー・チューズデー ~正義を売った日~』 『オレンジと太陽』 『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』 試写

試写室日記

本日は試写を3本。

『スーパー・チューズデー ~正義を売った日~』 ジョージ・クルーニー

ジョージ・クルーニーにとって4作目の監督作品。振り返ってみると、初監督作品の『コンフェッション』(02)から『グッドナイト&グッドラック』(05)、『かけひきは、恋のはじまり』(08)を経てこの『スーパー・チューズデー』(11)まで、3年ごとに監督作を発表していることになる。

筆者のサイトの方にアップしてあるジョージ・クルーニー論のタイトルは「優れたバランス感覚を備えたクレバーな映画人」だった。俳優としての演技の幅を着実に広げ、プロデューサーもやり、南スーダンへの支援などの人道的な活動も行いながら、定期的に監督業もこなすというのは、バランス感覚のあらわれなのかと思いたくなるところだが、実際にはそこまで計画的というわけではないようだ。

『スーパー・チューズデー』の企画は、2007年から製作の準備が開始され、2008年には撮影に入る予定だったが、タイミングが悪いということで延期することになった。プレスにはクルーニーのこんな説明がある。「ちょうどその頃にオバマが大統領に選出されて、アメリカ中が希望にあふれていた。誰もがハッピーで楽観的になっているときに、こういうシニカルな映画を撮るなんて間が悪すぎるよね。でも1年もしないうちに人々が再びシニカルになり始めたから、そろそろ製作を始めてもいい頃だと思ったんだ」

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今週末公開オススメ映画リスト2012/02/02

週刊オススメ映画リスト

今回は『人生はビギナーズ』『NINIFUNI』『ハンター』の3本です。

『人生はビギナーズ』 マイク・ミルズ

『サムサッカー』のマイク・ミルズの新作。ミルズのプライベート・ストーリーに基づく物語で、75歳にしてカミングアウトした父親と息子の絆が描かれる。月刊「宝島」2012年3月号の連載コラムでレビューを書いております。

父親はどんな時代をくぐり抜けてきたのか。それがわかっているとドラマがより深いものになる。ミルズの表現はさり気ないが、明らかに(特に50年代の)抑圧の時代を理解していてそのように描いている。

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『ハンター』 映画.com レビュー&劇場用パンフレット

News

ウィレム・デフォー主演のオーストラリア映画、2月4日公開!

ダニエル・ネットハイム監督の『ハンター』はあなどれない。最近はなんでも説明してしまうテレビドラマのような作品が少なくないが、この映画はそういう要素をいさぎよく削ぎ落としていく。さらに、モノローグやフラッシュバックを使いたくなるようなところでもまったくそれをやらない。徹底していて気持ちがいい。

だからこちらが想像力を働かせる余地がたっぷり残されている。最後のタスマニアタイガーや自然、あるいは死者と主人公の関係を描くこの映画には、そういう言葉や説明に頼らない表現がふさわしい。

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『ハンター』試写

試写室日記

本日は試写を1本。

『ハンター』 ダニエル・ネットハイム

ウィレム・デフォー主演のオーストラリア映画。タスマニアの大自然のなかで、絶滅したとされるタスマニアタイガーを探し求めるハンターをめぐる人間ドラマ。コーマック・マッカーシーショーン・ペンが掘り下げようとするような「狩猟」に強い関心を持つ筆者には、そそられる物語であり世界だった。

このドラマでは、森林伐採を生業とする労働者とエコロジストが対立しているが、ハンターはどちらにも属さない微妙な立場にある。しかも、彼はとあるバイオ・テクノロジー企業に雇われている。つまり、様々な力がせめぎ合う状況のなかで、彼はハンターとしての生き方や自然との関係性を問い直さざるをえなくなる。

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『明りを灯す人』 『田中さんはラジオ体操をしない』試写

試写室日記

本日は試写を2本。どちらの作品も電気に関わっていたりする。

『明りを灯す人』 アクタン・アリム・クバト

『あの娘と自転車に乗って』や『旅立ちの汽笛』の監督から届けられた久しぶりの新作だが、監督の名前が以前とは変わっている。かつてはアクタン・アブディカリコフだったが、ロシア名のアブディカリコフを、キルギス名のアリム・クバトに改めたとのこと。

しかもこの『明りを灯す人』では、監督・脚本に加えて、自ら主人公を演じている。映画の舞台は、中央アジア・キルギスの小さな村で、村人たちから親しみを込めて“明り屋さん”と呼ばれている電気工が主人公だ。穏やかだった村に変革の波が押し寄せ、共同体の基盤が揺らいでいく。

これは素晴らしい映画だ。電気工という主人公の設定が生きている。電灯は便利ではあるが、人々を豊かにするとは限らない。これまで同じ闇を共有していた人間と動物は別の世界を生きるようになる。闇に支えられてきた説話の力も失われていく。明り屋さんは、そんな分岐点に立たされている。

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