『ラブ・アゲイン』 『50/50』試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ラブ・アゲイン』 グレン・フィカーラ、ジョン・レクア

スティーブ・カレル、ライアン・ゴズリング、ジュリアン・ムーア、エマ・ストーン、ジョン・キャロル・リンチ、マリサ・トメイ、ケビン・ベーコンというなんとも贅沢なキャスト。

スタイルとしては“足し算”のコメディといえる。25年連れ添った妻からいきなり離婚を切り出され、一人暮らしを始めた主人公キャルが、バーで出会ったプレイボーイのジェイコブからレクチャーを受け、自信を取り戻そうとする。というのが軸になる物語だが、そこに他の登場人物が絡む様々な伏線が加算されていき、終盤で全員が意外なかたちで勢揃いする。

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『ミラノ、愛に生きる』 『ラビット・ホール』試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ミラノ、愛に生きる』 ルカ・グァダニーノ

故デレク・ジャーマン作品のミューズ、『フィクサー』でアカデミー助演女優賞を獲得したティルダ・スウィントンが、主演だけではなく企画の段階から深く関わり、プロデュースも手がけている作品だが、これは素晴らしい。先日観た『灼熱の魂』も圧倒されたが、こちらはまた別の意味ですごい。引き込まれた。

Bunkamura ル・シネマのリニューアルオープニング作品ということで、ミラノの上流社会とかファッションとかメロドラマとか、それらしいカラーに染められた世界にはなっているが、まったく違った見方ができる。

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アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ 『BIUTIFUL』 レビュー

Review

複数の境界が交差する場所に立つ男、その孤独な魂の震え

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの新作『BIUTIFUL』は、表現や構成がこれまでの監督作とは違う。複数の物語を断片化し、再構築するようなスタイルは見られない(『アモーレス・ペロス』『21グラム』、イニャリトゥとコンビを組んでいたギジェルモ・アリアガ『あの日、欲望の大地で』のレビューをお読みいただければ、筆者がこれまでの彼のスタイルに好感を持っていなかったことがおわかりいただけるだろう)。

主人公はスペインの大都市バルセロナの底辺で生きる男ウスバル。妻と別れ、男手ひとつで二人の子供を育てている彼がある日、末期がんで余命2ヶ月と宣告される。

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想田和弘 『Peace』 レビュー



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瞬間の中に大切なものが見える

想田和弘監督の『Peace ピース』(10)は、『選挙』(07)、『精神』(08)につづく〝観察映画〟の最新作だが、その冒頭には「第3弾」ではなく「番外編」の文字が浮かび上がる。

この作品の出発点は、想田監督が韓国・非武装地帯ドキュメンタリー映画際から「平和と共存」をテーマにした短編を依頼されたことだった。想田監督の独自のアプローチである観察映画では、あらかじめテーマを決めることなく、先入観を排除して被写体にカメラを向ける。テーマは撮影や編集を通して後から見えてくるものなのだ。

だから彼は依頼を断るつもりだったが、岡山にある妻の実家に帰って、義父が世話する野良猫たちを目にして気が変わった。そして、短編の予定だった映画はいつしか75分の長編になっていた。

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セミフ・カプランオール 『卵』 『ミルク』 『蜂蜜』 (ユスフ3部作)レビュー



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発作、夢、死、動物――見えない世界への扉が開かれる

トルコ映画界を代表するセミフ・カプランオール監督の“ユスフ三部作”は、ユスフという人物の人生や世界を題材にしているが、その構成が少し変わっている。彼の成長過程を追うのではなく、壮年期から青年期、幼少期へと遡っていくのだ。但し、厳密には過去へと遡るわけではない。三作品はいずれも現代のトルコを背景にしているからだ。

第一部の『卵』では、イスタンブールに暮らす詩人ユスフのもとに母親の訃報が届き、遠ざかっていた故郷に戻った彼のなかに失われた記憶が甦ってくる。

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