ドゥニ・ヴィルヌーヴ 『プリズナーズ』 レビュー

Review

過去や罪に囚われた者たちの運命を分ける、偶然と信仰心

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『プリズナーズ』は、ペンシルヴェニア州で工務店を営むケラーとその息子が鹿を狩る場面から始まる。親子が狩猟を終え、獲物を車の荷台に載せて自宅に向かっているとき、ケラーは父親から教えられたことを息子に伝える。それは「常に備えよ」という言葉に集約される。実際、自宅の地下室には、食料から防毒マスクまでサバイバルに必要なあらゆるものが備えられている。私たちは、ケラーの父親というのは、非常に用心深く、何事にも動じない人物だったのだろうと思う。

ところが、ドラマのなかでそんな印象が変わる。ケラーの行動に不審を抱いた刑事のロキは、古い新聞記事から、州刑務所の看守を務めていた彼の父親が自宅で自殺したことを知る。その事情は定かではないが、当時ティーンエイジャーだったケラーが立ち直れないほどのショックを受けたことは間違いない。

続きを読む

『それでも夜は明ける』 劇場用パンフレット

News

檻に囚われた人間

2014年3月7日(金)よりTOHOシネマズ みゆき座ほか全国順次ロードショーになるスティーヴ・マックィーン監督の新作『それでも夜は明ける』(13)の劇場用パンフレットに、上記のようなタイトルで作品評を書いています。

第86回アカデミー賞で、作品賞、助演女優賞(ルピタ・ニョンゴ)、脚色賞(ジョン・リドリー)の三冠に輝いたことはもうご存知かと思います。

1841年、北部のニューヨーク州で自由黒人として妻子と暮らしていたソロモン・ノーサップは、ある日突然誘拐され、南部の奴隷州で12年間、奴隷として生きることを余儀なくされました。再び自由を取り戻した彼は、その体験を綴った回想録『12 Years a Slave』を発表し、ベストセラーになりました。この映画は、そのノーサップの回想録にもとづいています。

キウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチ、ポール・ダノ、ポール・ジアマッティ、ルピタ・ニョンゴ、ブラッド・ピットなど、キャストが豪華で、しかもマックィーンの世界をしっかりと表現しています。

この顔ぶれでは、冷酷な奴隷所有者(ファスベンダー)の妻を演じるサラ・ポールソンなどはあまり注目されないと思いますが、この数年、ショーン・ダーキン監督の『マーサ、あるいはマーシー・メイ』(11)、ジェフ・ニコルズ監督の『MUD‐マッド‐』(12)、そしてこの作品と、次々に注目の監督と組み、どれもそれほど目立つ役ではありませんがいい仕事をしていると思います。

続きを読む