『危険なメソッド』 試写

試写室日記

本日は試写を1本。

『危険なメソッド』 デヴィッド・クローネンバーグ

デヴィッド・クローネンバーグ最新作。ユングをマイケル・ファスベンダー、フロイトをヴィゴ・モーテンセン、そしてふたりを結びつけるザビーナ・シュピールラインをキーラ・ナイトレイが演じる。

映画のなかでザビーナという人物が放つ独特のオーラに魅了された。実際にそういう人物であったのか、原作のノンフィクション『A Most Dangerous Method: The Story of Jung, Freud, and Sabina Spielrein』を書いたジョン・カーの慧眼なのか、それをもとに戯曲を書き、この映画のために自ら戯曲の脚色を手がけたクリストファー・ハンプトン(『つぐない』)の想像力なのか、クローネンバーグの鋭い直観なのか、あるいはそのすべてなのか定かではないが、とにかく非常に興味深い。

ザビーナがオーラを放つのは必ずしもトラウマのせいではないだろう。映画のなかに、フロイトが彼女に対して、自分たちはユダヤ人であり、アーリア人(ユングのこと)に深入りすべきではないというような表現で忠告する場面がある。

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(昔の)ブライアン・ツェー&アリス・マク 『マクダル パイナップルパン王子』 インタビュー



トピックス

「マクダル」シリーズのクリエーターが作品世界の背景や独自の表現について語る

■■シリーズ最新作の『マクダルのカンフーようちえん』が公開されるので、まだHPにアップしていなかった『マクダル パイナップルパン王子』公開時のインタビューをひとまずブログにアップします。■■

原作者のブライアン・ツェー(謝立文)と原画家のアリス・マク(麥家碧)のコンビが生み出した「マクダルとマクマグ」のシリーズは、マンガや絵本からテレビ・アニメ、そして映画へと進出し、地元香港で大人たちも巻き込む社会現象を引き起こしたという。そんなシリーズの軌跡と香港の置かれた状況の変化は密接に結びついているように見える。

香港の返還が決定したのが84年で、89年の天安門事件の衝撃を経て、返還に至る90年代の香港では、当然のことながら香港や香港人であることが強く意識されるようになった。そして返還後は、「一国二制度」という現実と向き合っている。

一方、「マクダルとマクマグ」のシリーズは、91年にマクマグを主人公としたマンガの連載が始まり、94年に母子家庭で育つマクダルが登場すると同時に、物語に社会的な要素を盛り込むという転換を図り、より大きな注目を集めるようになった。そして97年からケーブルテレビでアニメの放映が始まり、2000年にそれが終了すると、2001年からは映画の公開が続いている。

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『みんなで一緒に暮らしたら』 『ライク・サムワン・イン・ラブ』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『みんなで一緒に暮らしたら』 ステファン・ロブラン

フランス映画界の新鋭ステファン・ロブランの監督第2作。それほど遠くはない未来に死が訪れるであろう5人の老人たち(2組の夫婦と独身者)。昔から誕生日をともに祝ってきたこの仲間が自分たちの人生を守るために始めた共同生活がユーモアを交えて実に生き生きと描き出される。

ジェーン・フォンダやジェラルディン・チャップリンらのアンサンブルに加えて、犬の散歩係に雇われたことをきっかけに老人たちの観察者になっていく若者にダニエル・ブリュール(『グッバイ、レーニン!』『ベルリン、僕らの革命』)が扮している。

試写を観る前から面白そうな予感がしていたが、期待を上回る素晴らしい作品だった。老人たちの性をユーモラスかつ赤裸々に描いているところが魅力と思う人もいるかもしれないが、それは映画の表面的な要素に過ぎない。

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今週末公開オススメ映画リスト2012/08/02

週刊オススメ映画リスト

今回は『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』と『トガニ 幼き瞳の告発』の2本です。

『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』 長谷川三郎

広島の被爆者を筆頭に、学生運動、三里塚闘争、自衛隊、公害、祝島、原発などに迫った福島菊次郎の写真とブレのない彼の姿勢は、弱い立場にある人々を見離し、その事実を覆い隠した土台のうえに日本の戦後があることを思い知らせる。そんな嘘の上に暮らすことには我慢がならない。だから彼は国の世話になることを拒み、無人島で自給自足の生活をしようとした。

昨年の夏、筆者は鳥海山に登ったあとで、酒田にある土門拳記念館に立ち寄った。7/13から9/28までは、「古寺巡礼―土門拳仏像十選―」とともに「ヒロシマ」の写真が展示されていた。その写真を見つめていた人たちは、それぞれにフクシマのことを考えていたに違いない。

この映画では、福島菊次郎と被爆者・中村杉松さんの関係を通して、そしてその関係を宿命のように背負った福島の眼差しや情念や身体を通して、ヒロシマとフクシマが生々しく重なっていく。

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トッド・グラフ 『ジョイフル♪ノイズ』 レビュー

Review

トッド・グラフが喚起した心と声のフュージョン

『ジョイフル♪ノイズ』が三作目の監督作になるトッド・グラフ。彼の作品には明確な共通点がある。落ちこぼれやはみ出し者が、音楽を通して友情や恋を育み、壁を乗り越えて成長を遂げていく。

サンダンス映画祭で喝采を浴び、日本でも人気の高い監督デビュー作『キャンプ』(03)では、ゲイや肥満やもてない悩みを抱える若者たちが、サマーキャンプでミュージカルの厳しい課題に打ち込み、個性を開花させる。

二作目の『Bandslam』(09)では、デヴィッド・ボウイを崇拝するはみ出し者の高校生が、人気者の女子に音楽の知識を認められ、彼女のバンドのマネージャーになったことから、バンドのコンテストという目標に向かって人の輪が広がっていく。

『ジョイフル♪ノイズ』では、反抗的なランディや両親の間にある溝に心を痛めるオリヴィア、アスペルガー症候群に悩む彼女の弟ウォルターの関係が、音楽を通して変化していく。

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