マリウス・ホルスト 『孤島の王』 レビュー

Review

銛を3本打っても死なない鯨の物語が世界を呑み込んでいく

マリウス・ホルスト監督のノルウェー映画『孤島の王』は、1915年、不適な面構えをした少年エーリングが、オスロ南方のバストイ島に上陸するところから始まる。外界と隔絶した島には、罪を犯した少年たちを収容する施設があった。

C19という番号を与えられたエーリングは、高圧的な院長と寮長への反抗や島からの脱走を繰り返し、その度に懲罰を課せられる。やがて彼の不屈の魂は、監視役の優等生オーラヴの心を動かし、島の秩序を揺るがしていく。

映画の冒頭には以下のような言葉が浮かび上がる。「バストイ島には1900年から1953年まで非行少年のための矯正施設が存在した。この物語は事実にもとづく」

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今週末公開オススメ映画リスト2012/03/01+α

週刊オススメ映画リスト

今回は『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』、『戦火の馬』、『ピナ・バウシュ 夢の教室』、『父の初七日』、『プリピャチ』(順不同)の5本です。

おまけとして『アリラン』のコメントをつけました。

『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』 ヴェルナー・ヘルツォーク

1994年南仏で発見されたショーヴェ洞窟、その奥には3万2千年前の洞窟壁画が広がっていた。フランス政府は貴重な遺跡を守るため、研究者や学者のみに入場を許諾してきた。ここに初めてヘツルォーク率いるスタッフが入り、3Dカメラによる撮影を敢行した。(プレスより)

野生の牛、馬、サイ、ライオン、あるいはフクロウ、ハイエナ、ヒョウなど、その豊かな表現力には息を呑む。「CDジャーナル」2012年3月号にこの作品のレビューを書いておりますので、ぜひお読みください。で、そのレビューを補うようなことをこちらに。

この映画から浮かび上がる世界は、『グリズリーマン』(05)や『Encounters at the End of the World(世界の果ての出会い)』(07)といったヘルツォークの近作ドキュメンタリーを踏まえてみるとさらに興味深いものになる。

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『メランコリア』 劇場用パンフレット



News

鬼才ラース・フォン・トリアー最新作!2月17日(金)ロードショー

『奇跡の海』や『ダンサー・イン・ザ・ダーク』にも心を激しく揺さぶられたが、フォン・トリアーがうつ病を体験してから作り上げた『アンチクライスト』と『メランコリア』には、単に心の病とみなされるだけのものではなく、渡辺哲夫が“生命の輝きそのもののような狂気”と表現するものに匹敵するような、これまでと異なる次元から人間と世界を見切っているような凄みがある。

『メランコリア』の劇場用パンフレットに「人間の在り方を原点から問い直す――鬼才トリアーの世界」というタイトルで作品評を書いております。筆者がいま関心を持っていることのど真ん中にくるような作品で、深く深く引き込まれました。『メランコリア』の試写室日記もお読みください。いろいろ参考になるかと思います。

キャストも素晴らしいです。特に女優陣。キルスティン・ダンストとシャルロット・ゲンズブールが対極の世界観を見事に体現しているうえに、シャーロット・ランプリングが少ない出番のなかで強烈な存在感を放っています。

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今週末公開オススメ映画リスト2012/02/02

週刊オススメ映画リスト

今回は『人生はビギナーズ』『NINIFUNI』『ハンター』の3本です。

『人生はビギナーズ』 マイク・ミルズ

『サムサッカー』のマイク・ミルズの新作。ミルズのプライベート・ストーリーに基づく物語で、75歳にしてカミングアウトした父親と息子の絆が描かれる。月刊「宝島」2012年3月号の連載コラムでレビューを書いております。

父親はどんな時代をくぐり抜けてきたのか。それがわかっているとドラマがより深いものになる。ミルズの表現はさり気ないが、明らかに(特に50年代の)抑圧の時代を理解していてそのように描いている。

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『ハンター』 映画.com レビュー&劇場用パンフレット

News

ウィレム・デフォー主演のオーストラリア映画、2月4日公開!

ダニエル・ネットハイム監督の『ハンター』はあなどれない。最近はなんでも説明してしまうテレビドラマのような作品が少なくないが、この映画はそういう要素をいさぎよく削ぎ落としていく。さらに、モノローグやフラッシュバックを使いたくなるようなところでもまったくそれをやらない。徹底していて気持ちがいい。

だからこちらが想像力を働かせる余地がたっぷり残されている。最後のタスマニアタイガーや自然、あるいは死者と主人公の関係を描くこの映画には、そういう言葉や説明に頼らない表現がふさわしい。

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