ワン・ビン 『無言歌』 レビュー



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過去を振り返る視点を排除し死者たちの声なき声を拾い上げる

世界の注目を集める中国の鬼才ワン・ビン監督の日本初公開作品『無言歌』は、ドキュメンタリーで才能を開花させた彼にとって初の劇映画となる。その題材は、文革の嵐が吹き荒れる前に起きた「反右派闘争」の悲劇だ。

毛沢東は56年に党批判を歓迎する運動を推進した後、57年に方針を転換し、苛烈な粛清を開始した。そして、党批判や家族の出自によって「右派」とされた者たちは、辺境での過酷な労働、そして激烈な飢餓との闘いを強いられることになった。

この悲劇には、現代中国の政治体制の原点を見ることができるが、ワン監督のアプローチはそんなことを考える余裕を与えない。

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『ミッドナイト・イン・パリ』 『ジョイフル♪ノイズ』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ミッドナイト・イン・パリ』 ウディ・アレン

アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞で脚本賞を受賞したアレンの新作。21世紀のアレンは定まった枠組みのなかで映画を作って、もはや逸脱することはないのかと思っていたが、そんなことはなかった。

プレスでは“タイムスリップ”という表現が使われているが、主人公が迷い込む世界が、本当の1920年代とは限らない。深夜0時を回った瞬間から始まる夢、あるいは妄想のようにも見え、曖昧にされているところがいかにもアレンらしい。

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『アーティスト』 劇場用パンフレット

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サイレント映画から新たな魅力を引き出す現代的なアプローチ

第84回米アカデミー賞で、作品賞、監督賞(ミシェル・アザナヴィシウス)、主演男優賞(ジャン・デュジャルダン)など5冠に輝いたサイレント映画『アーティスト』。4月7日より全国ロードショー公開になるこの作品の劇場用パンフレットに上記のタイトルで作品評を書いております。

実際に作品を観るまでは、サイレント映画がなぜこれほど話題になるのか正直、不思議に思っていましたが、かつてのサイレント映画を現代に甦らせただけの作品ではないし、ハリウッドへのオマージュや、男優と女優のロマンス、芸達者な犬以外にも魅力を持った作品です。

冒頭の新作上映会では、俳優たちが上映後の舞台挨拶のためにスクリーンの裏で待機しているのですが、そこでわざわざ「舞台裏につき私語禁止」という標語を映してみせたときに、これは音や音楽を意識させる巧みな話術が見られそうだと思ったら、本当にそういうことになっていました。

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『ル・アーヴルの靴みがき』 『レンタネコ』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ル・アーヴルの靴みがき』 アキ・カウリスマキ

アキ・カウリスマキにとって長編映画としては5年ぶりの新作であり、『ラヴィ・ド・ボエーム』(91)以来、2本目のフランス語映画となる。その『ラヴィ・ド・ボエーム』は観ておいたほうがよいと思う。マルセル・マルクスが再登場するだけではなく、物語がそこから再構築されているところがあり、現在のカウリスマキの境地を理解する手がかりになるからだ。

映画を観ながら、昔カウリスマキにインタビューしたとき、空間の造形についてこのように語っていたのを思い出した。

「時代についてはいつもタイムレスな設定をしようという気持ちがあります。たとえば普通は、70年代と50年代の家具を組み合わせるようなことはしないと思いますが、わたしは同じ画面のなかにいつも異なる時代を混在させています。 そして最終的には50年代へと戻っていく傾向があります。わたしは実際にその時代を体験したわけではありませんが、とても好きな時代なのです。誰もが経済的には貧しかったが、とてもイノセントで、もっとお互いに助け合い、幸福な時代でした」

そういうセンスにさらに磨きがかかっている。カウリスマキが、『浮き雲』(96)、『過去のない男』(02)、『街のあかり』(06)という三部作を完成させたあと、どういう方向に向かうのか大いに注目していたが、これまで暗示的に表現されていたものが具体化され、新たな次元へと踏み出していて、素晴しい。

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ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 『少年と自転車』 レビュー

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必死にしがみつく少年、誘惑の森、そして媒介としての自転車

カンヌ国際映画祭グランプリを受賞したダルデンヌ兄弟の新作『少年と自転車』(11)では、児童養護施設で暮らす少年シリルと美容院を経営するサマンサとの交流が描かれる。

間もなく12歳になるシリルは、彼を施設に預けた父親とまたいっしょに暮らすことを夢見ていたが、団地に戻ってみると父親はなにも告げずに転居していた。そのときサマンサと出会い、親切にされた彼は、週末を彼女の家で過ごすようになる。

シリルはその週末を使って父親を探し当てるが、戸惑う父親から突き放されてしまう。それを目の当たりにしたサマンサは、真剣にシリルの面倒をみるようになる。だが、かつて同じ施設にいた不良少年ウェスが、彼を巧みに丸め込み、利用しようとする。

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