グレゴール・ジョーダン 『4デイズ』 レビュー



Review

テロとの戦いや安全保障をめぐるアメリカのジレンマ

(公開延期になっていた『4デイズ』の公開日が再決定しましたので、『宝島』に書いたレビューをアップします)

かつて『戦争のはじめかた』で米軍を痛烈に風刺したオーストラリア出身のグレゴール・ジョーダン監督が、またアメリカ人が目を背けたくなるような作品を作り上げた。テロとの戦いや安全保障に関わるこの新作がアメリカであまり話題にならなかったのは、痛いところを鋭く突いていたからだろう。

映画は、改宗してムスリムになったアメリカ市民の男ヤンガーが、ビデオカメラに向かってメッセージを録画するところから始まる。彼は、国内の3都市に核爆弾を仕掛け、要求が受け入れられない場合には4日後に爆発すると予告する。

4days

『4デイズ』 9月23日(金・祝日)より銀座シネパトスほか全国公開! (C) 2009 Unthinkable Clock Borrower, LLC. All Rights Reserved.

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『ツリー・オブ・ライフ』試写



試写室日記

本日は試写を1本。

『ツリー・オブ・ライフ』 テレンス・マリック

『ニュー・ワールド』(05)以来となるテレンス・マリックの待望の新作。ブラッド・ピット、ショーン・ペン主演。宇宙や太古の自然、生命などの映像にはそれほど心を動かされなかった。しかし、50年代の日常のドラマには、異様な凄みがある。

筆者はだいぶ前から、マリックが50年代以降の世界に深く絶望し、そこで失われたものを呼び覚まそうとしているように感じていた。

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『New History Warfare Vol.2: Judges』 by Colin Stetson

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リード楽器と身体を極限まで駆使する圧巻のひとりオーケストラ

コリン・ステットソン(Colin Stetson)というリード奏者の名前は知らなくても、彼が生み出す音に触れている人は少なくないはずだ。たとえば、トム・ウェイツ(Tom Waits)の『Alice』や『Blood Money』、『Orphans』とか、Arcade Fireの『Neon Bible』や『The Suburbs』、TV On the Radioの『Return to Cookie Mountain』や『Dear Science』、Yeasayerの『Odd Blood』、そしてBon Iverのニューアルバム『Bon Iver, Bon Iver』(11)にも。

ステットソンがどんな音を出しているのか、とりあえず彼のサックスがフィーチャーされたArcade Fireのショート・フィルムの予告編でも見てみますか。監督はスパイク・ジョーンズです。

でもステットソンが本領を発揮するのはやはりソロでしょう。でかくて重いバス・サックスと一体化した超絶技巧をご覧あれ。

Colin Stetson | Awake on Foreign Shores & Judges | A Take Away Show from La Blogotheque on Vimeo.

テープとかループを使っているわけではない。循環呼吸、キーでリズムを生み出す指使い、ヴォーカリゼーション、過剰なブロウや残響、楽器の特性と身体を駆使してユニークな音楽が生み出される。ミニマル・ミュージックのようでもあり、アルバート・アイラーのようでもある。

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ソフィア・コッポラ 『SOMEWHERE』 レビュー



Review

伝説のホテル“シャトー・マーモント“という異空間の魅力

ソフィア・コッポラの新作『SOMEWHERE』(10)の物語は至ってシンプルだ。ハリウッドのスター、ジョニー・マルコは、セレブにつき物の刹那的な生活を送りながらも、心は満たされていない。ある日そんな彼のもとに、前妻と暮らす11歳の娘クレアがやって来る。そして娘と過ごす時間のなかで彼は自分を見つめなおし、新たな一歩を踏み出そうとする。

この映画は、ジョニーが暮らすホテルに関する予備知識がないと面白さが伝わらないかもしれない。そのホテルとは、LAのセレブが自宅がわりに利用しているという“シャトー・マーモント”。

筆者は、A・M・ホームズの『ロサンゼルスの魔力~伝説のホテルから始まるミステリアス・ツアー』を読むことをお勧めする。本書には、真偽が定かでないものも含め様々な伝説が取り上げられている。

レッド・ツェッペリンはバイクでロビーを走り抜けた。ジム・モリソンは4階の窓から飛び降りたが骨折もしなかった。ジェームズ・ディーンはここで初めて『理由なき反抗』の脚本を読んだ。

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『Bon Iver, Bon Iver』 by Bon Iver



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場所に対する感覚、個人的な体験、音楽的な記憶が混ざり合うサウンドスケープ

Bon IverことJustin Vernonは、場所に対する独特の感覚を培い、サウンドスケープを作り上げている。彼に大きな成功をもたらした『For Emma, Forever Ago』(08)は、雪に閉ざされた森で生まれた。

バンドの分裂や彼女との破局、体調不良などの重荷を背負ったVernonは、2006年の冬に父親が所有するウィスコンシンの山小屋にひとりでこもった。ギターやドラム、ホーン、マイクを持ち込んでいた彼は、そこで自己の音楽的世界を見出した。

以前ブログで取り上げたArboreaは、夫婦のユニットで、メイン州の自然のなかに暮らし、自然にインスパイアされて独自の世界を切り拓いているが、彼らはあるインタビューで冬が最も刺激をもたらすと語っていた。厳しい寒さのなかで孤立すること、計り知れない孤独が刺激になるというのだ。

『For Emma, Forever Ago』 (2008)

もちろん、冬の森で計り知れない孤独を味わうことが、必ずインスピレーションをもたらすわけではない。ウィスコンシンの自然のなかで育ったVernonは、山々や湖によって感性を培われた。2006年の冬に山小屋にこもったときには、2頭の鹿を仕留め、食料にしていたという。


Written by Justin Vernon with Andre Durand and Dan Huiting
Directed by Andre Durand and Dan Huiting
Produced by Daniel Cummings and Picture Machine Productions
Filmed in April 2011 in Fall Creek, WI

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