今週末公開オススメ映画リスト2011/03/17+α

週刊オススメ映画リスト

今回は『トゥルー・グリット』、『お家をさがそう』の2本です。おまけとして『ザ・ライト―エクソシストの真実―』の短いコメントをつけました。

『トゥルー・グリット』 ジョエル&イーサン・コーエン

マティ、コグバーン、ラビーフの3人が川という境界を越えて分け入る世界は、先住民たちの土地、犯罪者たちが逃げ込む無法地帯であるだけではない。

コーエン兄弟らしさが最もよく出ているのが、ラビーフと別れたマティとコグバーンの前に、奇妙な光景や人物が出現するところだろう。まず、かなり高い木の枝に男の死体が吊るされている。コグバーンが銃でロープを切ることはたやすいはずだが、マティがわざわざ木にのぼっていき、ナイフでロープを切る。

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今週末公開オススメ映画リスト2011/03/10+α

週刊オススメ映画リスト

今回は『ランナウェイズ』の1本です。おまけとして『台北の朝、僕は恋をする』の短いコメントをつけました。

『ランナウェイズ』 フローリア・シジスモンディ

70年代に一世を風靡し、来日もしたガールズバンド“ランナウェイズ”を題材にした作品。バンドのヴォーカルだったシェリー・カーリーの自伝『Neon Angel : The Cherie Currie Story』が原作。詳しいことは『ランナウェイズ』レビューをお読みください。

以下はおまけのコメントです。

『台北の朝、僕は恋をする』 アーヴィン・チェン

アメリカで生まれ育った(北カリフォルニアの郊外育ちとのこと)中国系の監督アーヴィン・チェンが、台北の街をどう描くのかがひとつの見所だろう。

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フローリア・シジスモンディ 『ランナウェイズ』レビュー

Review

壊れた家族とバンドという擬似家族の狭間で――もうひとつの『ブギーナイツ』

70年代に一世を風靡したガールズバンド“ランナウェイズ”を題材にしたこの映画で、まず注目すべきなのはサンフェルナンド・ヴァレーという舞台だろう。ロサンゼルスの郊外に広がるこの地域は、サバービアというテーマとも結びつきながら、映像作家の想像力を刺激し、アメリカのひとつの象徴として描かれてきた。

スティーヴン・スピルバーグは、『E.T.』をここで撮影した。ティム・バートンは『シザーハンズ』のプレスで「この映画は、ぼくの育った映画の都バーバンクの想い出がいっぱいつまっている」と語っているが、そのバーバンクもこの地域の縁にある。

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『キラー・インサイド・ミー』試写



試写室日記

本日は試写を1本。

『キラー・インサイド・ミー』 マイケル・ウィンターボトム

ウィンターボトムなのでジム・トンプスンの世界をどう映像に翻訳してみせるのか楽しみにしていたが、この監督ならではの世界を感じ取ることができなかった。これまでのなかでそういう作品は、『24アワー・パーティ・ピープル』だけだったのだが…。

かつてウィンターボトムはジョン・アーヴィングの『サイダーハウス・ルール』の映画化を進めながら、途中で自ら監督を降りたことがある。筆者が彼にインタビューしたとき、その事情をこのように説明していた。

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今週末公開オススメ映画リスト2011/02/24

週刊オススメ映画リスト

今回は『アンチクライスト』、『英国王のスピーチ』、『シリアスマン』、『世界のどこにでもある、場所』、『悪魔を見た』の5本です。

『アンチクライスト』 ラース・フォン・トリアー

この映画では、「人間」と「自然」(あるいは「動物」)が対置されている。人間は「歴史」に囚われている。映画の題名に関わるキリスト教も、魔女狩りも、セラピストの論理も歴史のなかにある。動物は歴史の外にあって、「瞬間」を生きる。私たちは、ある種の狂気を通して、動物性への帰郷を果たす必要があるのかもしれない。詳しいことは、2月19日発売の「CDジャーナル」2011年3月号掲載の『アンチクライスト』レビューをお読みください。

『英国王のスピーチ』 トム・フーパー

幼い頃から吃音というコンプレックスを抱え、人前に出ることを恐れてきた男が、様々な困難を乗り越えて国民に愛される王になっていく物語は感動的だ。しかし、この物語に深みを生み出しているのは、スピーチ矯正の専門家ライオネルの存在だろう。

このオーストラリア人は一見、とんでもなく型破りに見える。患者が王太子であっても往診を拒み、診察室に呼び寄せる。その診察では王太子と自分の平等を宣言し、王太子を愛称で呼び、喫煙を禁じ、プライベートな事柄を遠慮もなく根掘り葉掘り聞いてくる。

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