『灼熱の魂』劇場用パンフレット



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カナダの異才ドゥニ・ヴィルヌーヴの独自の話術と世界に迫る

カナダのアカデミー賞であるジニー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞など主要8部門を独占し、米国アカデミー賞の最優秀外国語映画賞にノミネートされた傑作『灼熱の魂』。この映画の劇場用パンフレットに「物語の力――偶然と必然の鮮やかな反転」というタイトルで作品評を書いています。

これを読めばどうしてももう一度観たくなる。そういう原稿になっていると思います。劇場で作品をご覧になりましたらぜひパンフもチェックしてみてください。

河瀨直美 『朱花の月』 レビュー



Review

万葉の精神と響き合い、純粋な「瞬間」に目覚めていくヒロイン

河瀨直美監督の『朱花の月』の舞台は、大和三山や藤原宮跡があり、古代の記憶が宿る飛鳥地方だ。この映画には、その記憶の断片ともいえる万葉集の歌が挿入される。

大和三山を男女に見立てた中大兄皇子の歌は、こんな意味になる。「香具山は畝傍山が愛おしい/奪われたくないから耳成山と争う/遠い昔もそうだった/そして今の世でも争うのだ」

この映画のヒロインは、万葉集に出てくる朱花(はねづ)の色に魅せられた染色家の加夜子。これまで地元PR紙の編集者・哲也と長年一緒に暮らしてきた彼女は、かつての同級生で木工作家の拓未と再会し、いつしか愛し合うようになっていた。

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マイケル・ウィンターボトム・インタビュー

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現代のインドに舞台を移せば、トマス・ハーディの世界がダイナミックに展開できると思った

マイケル・ウィンターボトム監督に取材でお伝えしたインタビューの記事がTIFFのサイトにアップされました。三度目の映画化となるハーディの作品のことから、ヌスラット・ファテ・アリ・ハーンの曲も使われている音楽のことまでいろいろ質問しています。

なかでも筆者が特に興味を覚えたのは、ツーリズムやポストコロニアリズムに関する発言ですね。ウィンターボトムがミシェル・ウエルベックの『プラットフォーム』の映画化を切望していたことを覚えていて、この小説を読んでいる方にはかなり興味深い発言なのではないかと思います。

インタビューは↓こちらからどうぞ。
【公式インタビュー】コンペティション『トリシュナ』

マイケル・ウィンターボトム監督に取材

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新作『トリシュナ』に埋め込まれたサブテーマが見えてきた

新作『トリシュナ』がTIFFコンペ作品になっているマイケル・ウィンターボトム監督にインタビューしてきた。彼にインタビューするのは3度目。最初は『バタフライ・キス』で来日したとき、2度目は『いつまでも二人で』で、このときは電話インタビューだった。いずれにしても10年以上経過している。

ウィンターボトムは早口で、集中してくるとさらに早くなる。コメントの密度も濃いので、その場では把握できなかったことがあとでよみがえり、なるほどと思うことがある。今回もそういうことがあった。

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今週末公開オススメ映画リスト2011/10/27

週刊オススメ映画リスト

今回は『フェア・ゲーム』、『ウィンターズ・ボーン』、『ゴモラ』の3本です。

『フェア・ゲーム』 ダグ・リーマン

イラク戦争に前後する時期には、アメリカ政府やCIAのなかで信じがたいことがいろいろと起こっていた。フセイン政権は開戦前に裏ルートを通じて大量破壊兵器を保有していないことをアメリカに伝えようとしたが、アメリカはバグダードで会おうと、これを突っぱねた。

どうしても戦争がしたいアメリカが飛びついたのは、国外追放処分を受けたイラク人で、“カーブボール”という暗号名を持つ人物の極めて信憑性が薄い大量破壊兵器の情報だった。

バグダード陥落後、故郷で米軍に拘束された大統領補佐官アル・ティクリティは、イラクに大量破壊兵器などなく、とうの昔にすべて破棄されたと告げたが、兵器を探し出すというブッシュ政権の目標が変わることはなかった。

実はCIAは、このアル・ティクリティが告げた事実を開戦前につかんでいた。ところが、政府やCIAの上層部から圧力がかかる。『フェア・ゲーム』では、そこから起こった事件が描き出される。

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