『ヴェルサイユの宮廷庭師』 劇場用パンフレット

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喪失の痛みを持つ者たちの、自然との共鳴

2015年10月10日(土)より全国ロードショーになるイギリス映画『ヴェルサイユの宮廷庭師』の劇場用パンフレットに、上記タイトルでレビューを書いています。『ウィンター・ゲスト』(97)で監督としても評価されたアラン・リックマンが、監督・共同脚本・出演を兼ねた作品です。ヒロインの庭師サビーヌをケイト・ウィンスレットが演じ、『君と歩く世界』(12)のマティアス・スーナールツが共演しています。

劇場で映画をご覧になりましたら、ぜひパンフレットもお読みください。

リティ・パニュ 『消えた画 クメール・ルージュの真実』 レビュー

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「下からの歴史」を炙り出すために

■ 大げさな観念を展開せず

カンボジアでは70年代後半にクメール・ルージュ(カンボジア共産党)の支配下で、150万とも200万ともいわれる人々の命が奪われた。プノンペン生まれのリティ・パニュは、10代半ばでこの悲劇を体験し、親兄弟や親族を亡くし、逃亡することで生き延びた。カンボジアとの国境に近いタイの難民収容所を経てフランスに渡った彼は、やがて映像作家となり、一貫してクメール・ルージュによるジェノサイドを題材にしたドキュメンタリーや劇映画を作り続けてきた。

新作『消えた画 クメール・ルージュの真実』でもその姿勢に変わりはないが、明らかにこれまでの作品とは異なる点がある。まず、パニュ自身の体験が直接的に語られている。しかも、その表現が独特だ。犠牲者が葬られた土から作られた人形たちを使ってかつて少年が目にした光景が再現され、アーカイブに残されたプロパガンダの映像と対置される。ナレーションに盛り込まれた回想や検証が二種類の映像と呼応し、動かない人形に生気が吹き込まれ、プロパガンダ映画の中の人々との間に皮肉なコントラストを生み出していく。しかしこの映画で注目しなければならないのは、そうした要素をまとめ上げている独自の感性だ。

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アブデラティフ・ケシシュ 『アデル、ブルーは熱い色』 レビュー



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階層と成長期に培われる価値観、食と集団をめぐるドラマに見るケシシュの世界

カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いたアブデラティフ・ケシシュ監督の『アデル、ブルーは熱い色』は3時間の長編だが、物語そのものはシンプルだ。

高校生のアデルは、道ですれ違ったブルーの髪の女に一瞬で心を奪われる。再会を果たした彼女は、画家を目指す美学生エマにのめり込んでいく。数年後、夢を叶えて幼稚園の先生になったアデルは、画家になったエマのモデルをつとめながら彼女と生活を共にしているが、やがて破局が訪れる。

チュニジアで生まれ、南仏ニースで育ったケシシュは、マグレブ系移民を作品に登場させても、国家や文化をめぐる単純な二元論に落とし込むのではなく、共通性を掘り下げ、より普遍的な世界を切り拓いてきた。

そうした姿勢は、新作にも引き継がれている。独自の美学に貫かれたラブシーンが鮮烈な印象を残す“ガール・ミーツ・ガール”の物語ではあるが、同性愛がテーマになっているわけではない。

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ポン・ジュノ 『スノーピアサー』 レビュー

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テクノロジーに依存した閉ざされた世界がたどり着く場所

韓国の異才ポン・ジュノは、『殺人の追憶』『グエムル-漢江の怪物-』『母なる証明』といった作品で、実際の連続殺人事件や突然変異で生まれた怪物の背後に北の脅威や軍事政権、韓米同盟などを見据え、巧妙に映し出してきた。

この監督のそんな洞察力や想像力は、海外の大舞台でも通用するのか。フランスのコミックを大胆に脚色し、国際的な豪華キャストを起用した新作『スノーピアサー』にその答えがある。

地球温暖化を防ぐために化学薬品が撒かれた結果、新たな氷河期に突入した地球では、大企業が製造し、大陸を結んで走り続ける列車“スノーピアサー”だけが、残された人類の唯一の生存場所となっている。

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ブライアン・デ・パルマ 『パッション』 レビュー

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表層と無意識、現実とイメージ――独自の視点で描く個と世界

ブライアン・デ・パルマがどんな映像作家であるのかを説明するのは容易ではない。70年代から80年代初頭にかけて『悪魔のシスター』(73)、『キャリー』(76)、『殺しのドレス』(80)、『ミッドナイトクロス』(81)といった作品で頭角を現したときには、アルフレッド・ヒッチコックの影響が顕著だったことから、その後継者と位置づけられていた。それらの作品に盛り込まれたスプリット・スクリーン、スローモーション、短いカット割り、カメラの360度回転や一人称のアングルといった映像表現は、デ・パルマ・カットと呼ばれ、熱狂的なファンを生み出した。

しかし、ハワード・ホークスの『暗黒街の顔役』の現代版である『スカーフェイス』(83)以降は、『アンタッチャブル』(87)や『ミッション:インポッシブル』(96)のような人気TVシリーズを映画化した娯楽大作から、『ミッション・トゥ・マーズ』(00)のようなSFやジェイムズ・エルロイのベストセラーを映画化した『ブラック・ダリア』(06)のようなノワールまで、様々なジャンルの作品を手がける作家へと変貌を遂げてきた。

デ・パルマの美学が最も輝きを放つのが、サスペンス・スリラーのジャンルであることは間違いないが、一方で彼の作品には、ジャンルでは括れない独自の視点が埋め込まれてもいる。デ・パルマは、幼年期に厳しく理解のない父親や兄に抑圧されていたことがトラウマとなり、それが映画に登場する男女の関係に様々なかたちで反映されている。

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