『ヒンデンブルグ 第三帝国の陰謀』 『愛、アムール』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ヒンデンブルグ 第三帝国の陰謀』 フィリップ・カーデルバッハ

1937年に起こった巨大飛行船ヒンデンブルグ号の爆発炎上事故を題材にしたドイツ映画。もとはテレビ映画として製作された作品で、グレタ・スカッキやステイシー・キーチなども出演している。もともと180分だったものを110分に刈り込んでいるので、いきなりかと思うところもないではないが、非常に手堅い演出で破綻はしていない。

70年代に同じ事故を題材にしたロバート・ワイズ監督の『ヒンデンブルグ』という作品があった。詳しいことは覚えていないが、飛行船に爆弾を仕掛ける目的は“反ナチス”だった。この映画の場合には、グローバリゼーションの時代を意識したような経済に関わる背景が盛り込まれている。

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『アジア映画の森――新世紀の映画地図』に寄稿しています

News

進化しつづけるアジア映画を網羅した決定版ガイドブック登場!

東は韓国から西はトルコまで、アートからエンターテインメントまで、アジア映画を国別の概論、作家論、コラムなどで網羅したガイドブック『アジア映画の森』が出ました(2012年5月31日発売)。

表紙は、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の『ブンミおじさんの森』。いいですねー(筆者が劇場用パンフレットに書いた『ブンミおじさんの森』レビューもぜひお読みください)。

執筆者は以下の方々です。麻田豊/アン・ニ/石坂健治/市山尚三/稲見公仁子/井上徹/宇田川幸洋/浦川留/大場正明/岡本敦史/金子遊/金原由佳/葛生賢/斉藤綾子/佐野亨/白田麻子/杉原賢彦/鈴木並木/諏訪敦彦/夏目深雪/野崎歓/野中恵子/萩野亮/梁木靖弘/クリス・フジワラ/古内一絵/古川徹/松岡環/松下由美/門間貴志/四方田犬彦(敬称略)。

『アジア映画の森――新世紀の映画地図』(作品社、368ページ)

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今週末公開オススメ映画リスト2012/03/01+α

週刊オススメ映画リスト

今回は『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』、『戦火の馬』、『ピナ・バウシュ 夢の教室』、『父の初七日』、『プリピャチ』(順不同)の5本です。

おまけとして『アリラン』のコメントをつけました。

『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』 ヴェルナー・ヘルツォーク

1994年南仏で発見されたショーヴェ洞窟、その奥には3万2千年前の洞窟壁画が広がっていた。フランス政府は貴重な遺跡を守るため、研究者や学者のみに入場を許諾してきた。ここに初めてヘツルォーク率いるスタッフが入り、3Dカメラによる撮影を敢行した。(プレスより)

野生の牛、馬、サイ、ライオン、あるいはフクロウ、ハイエナ、ヒョウなど、その豊かな表現力には息を呑む。「CDジャーナル」2012年3月号にこの作品のレビューを書いておりますので、ぜひお読みください。で、そのレビューを補うようなことをこちらに。

この映画から浮かび上がる世界は、『グリズリーマン』(05)や『Encounters at the End of the World(世界の果ての出会い)』(07)といったヘルツォークの近作ドキュメンタリーを踏まえてみるとさらに興味深いものになる。

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ウォルフガング・ムルンベルガー 『ミケランジェロの暗号』 レビュー

Review

名画や制服の価値に支えられた世界やシステムに揺さぶりをかける

ナチスに紙幣贋造を強制されたユダヤ人技術者たちの姿を描き、アカデミー賞外国語映画賞を受賞した『ヒトラーの贋札』。あの作品を手がけたプロデューサー、ヨゼフ・アイヒホルツァーが、再びナチスとユダヤ人が駆け引きを繰り広げる物語を作り上げた。

監督はオーストリア映画を代表するウォルフガング・ムルンベルガー、脚本はオーストリア出身で、ユダヤ系のポール・ヘンゲ。主人公ヴィクトルをモーリッツ・ブライブトロイが、その母親をマルト・ケラーが演じている。

物語の鍵を握るのは、ユダヤ人の画商が密かに所有する国宝級のミケランジェロの素描だ。ナチスはイタリアとの同盟を磐石にするためにこの素描を画商から奪う。

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『You Are Not Alone I & II (Sohrab remix album)』 by Various Artists

Listning

大都市テヘランに生きるミュージシャンの孤独と絶望

昨年公開されたクルド系イラン人の監督バフマン・ゴバディの『ペルシャ猫を誰も知らない』(09)には、テヘランのアンダーグラウンドで活動する様々なミュージシャンたちが登場する。インディ・ロック、フュージョン、ブルース、ヘヴィメタ、ラップなどなど。ただしこの映画、ドキュメンタリーではない。ゴバディはアンダーグラウンドのミュージシャンとの出会いをきっかけに、ドキュメンタリー、フィクション、ミュージックヴィデオ、即興などが融合したユニークな作品を作り上げた(※無許可のゲリラ撮影であったため、ゴバディは祖国を離れることになった)。

バフマン・ゴバディ・インタビュー『ペルシャ猫を誰も知らない』

テヘラン出身のミュージシャンSohrabはこの映画には登場しないが、彼のアルバム『A Hidden Place』にはもうひとつのイランを見出せる。彼が切り拓くエレクトロニック・アンビエントの世界は、アメリカで活動するイラン人批評家ハミッド・ダバシが主張するような多文化的、混合主義的、異種交配的な性格を備えているように思える。

『A Hidden Place』 (2010)

Sohrabは1984年、テヘランに生まれ。兄弟や友だちとパンク・バンドを結成したが、自由な表現や活動が許されず、2年で解散した。そして、孤立した状況のなかで、エレクトロニック・アンビエントの世界を切り拓いた。

Sohrab “A Hidden Place” from Touch on Vimeo.

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